引越しをしてから初めて歯医者に行った

口内環境のチェックはステージに立つものの義務だが

初めての土地で初めての歯医者

リクライニングチェアの上で、口を大きく開けて

さながら首元にナイフを突きつけられた人質かのように

「さあ、どうとでもしてくれ」

と言わんばかりに運命を委ねる

今回もいざ、その舞台へ

まず手渡された紙コップには

マウスウォッシュらしき液体が入っている

ああ、これなら知ってます

お口クチュクチュするやつですよね

そして先生に言われた

「こちらでまず、うがいをしてください」

え…

う…うがいをするんですか？？？

このおそらくお口クチュクチュするやつで

うがいをするんですか？？？

歯の汚れをこれで落とすんですよね？

うがいって、喉の殺菌をするための行為だと思ってたんですが

いつの間にか意味が変わってしまったんでしょうか…

そう思いながら僕は上を向いた

ガラガラガラ…

2秒で泡々になった

その姿を先生は横で見ている

…が、何も言わない

え、合ってるんですか？？？

恐る恐るガラガラしても2秒で溢れ出してしまうこの行為が

正解なんですか！？

そのあと僕はなんとか口を閉じ

最後に気持ちクチュクチュしてから吐き出した

そして何事もなかったかのように施術が始まった

…たぶん、違うと思う。

今回の先生が言い間違えただけで

更には先生もその言い間違いに気付いたものの

健気にうがいをする僕の姿を見て

間違いを言い出せなかったのだろう

わかる、わかるよ先生。そういう時あるよね

もう一度来てくださいね、ということだったので

次回の予約を取り

その真偽を確かめるべく

僕は後日、2度目の施術に向かった

その日はあの先生ではなかった

なんだ、答え合わせはまた次回か

そう思いながら僕はリクライニングチェアに座る

「では、前回の続きをしていきますね」

はい、お願いします

「ではまずこちらでうがいをしてください」

…僕は上を向いた