2016.09.29
エアジャム裏方秘話 ~岸田哲平編~
- INTERVIEW
前回、エアジャム裏方秘話第1回目としてカメラマン三吉ツカサのインタビューをお届けした。第2回目となる今回は、Hi-STANDARDを97年から追い続け、彼らが残してきた数々の足跡をライブ写真という形で我々に届けてくれているカメラマン岸田哲平を迎え、約20年に亘る彼らとの繋がり、そしてAIR JAMとの関わりについて語ってもらった。
最もハイスタに近いカメラマンならではの興味深いエピソードと、岸田特有の軽薄な語り口とのギャップが、インタビュー全体に奇妙なグルーヴを生み出していた。
TEXT:阿刀 “DA” 大志
── 哲平とHi-STANDARDの関係はいつから始まったの?
ハイスタ(Hi-STANDARD)がAngry Fist Tourで(岸田の地元でもある)広島のナミキジャンクションに来ることになって、disk shop MISERY(広島の老舗レコードショップ)のガイさんにカメラマンとして入れるようにお願いしたんですよ。そうしたら、オープニングアクトが広島のバンドだったんで、そのバンドのライブを撮るなら、それをきっかけにして現場で直接メンバーと交渉したらいいんじゃない?って言ってもらえて。
── そうだったんだね。
コークヘッドさん(COKE HEAD HIPSTERS)とかハスキンさん(HUSKING BEE)のライブも撮ったことがあったので、ライブ当日にその時の写真をメンバーの皆さんに見てもらって、それで撮らせてもらうことになりました。その広島の写真がこれです。これはずっと好きですね。
── いい写真だね。よく最初から上手く撮れたね。
でしょでしょだしょでしょ!? もう頭のなかで出来上がってたんで! ハイスタのビデオはテープ伸びるまでしこたま観てたんで!
── ところで、なんでモノクロなの?
(当時通ってた写真)専門学校でプリントしてたからです。ポジフィルムを買う金がなかったんですよ。そこでプリントした写真を撮らせてもらったバンドのメンバーに渡してました。
── Angry Fist Tourがあったのは97年で、AIR JAMの直前でした。
そうなんです。だからこの年のAIR JAMは客として遊びに行ってるんですよ。ずっと「撮りたいな」って思いながら観てましたね。この年はフジロックも客として行ってましたし、すごくフラストレーション溜まってました。
── 客として行ったAIR JAMはどうだった?
覚えてないっすね(笑)。COCOBATで燃えた記憶はあるんですけど、悔しかったからあんま覚えてないです。今もですけど、ライブに行ってるのに撮れないっていうのは本当に悔しいから嫌なんですよ。この頃はまだちゃんと撮れるカメラマンでもなかったんですけど、こういうことがあったから頑張ろうって思えたのかもしれないです。最近はなんでも撮れるっていうノリになってきてるけど、撮れない状況っていうのもときには必要なんじゃないですかね。
── 撮れない悔しさって大事だよね。
大事ですね。最近の僕は、カメラ持ち始めてから時間が経ってきてるせいか、このバンド! 次はこのバンド! 色々撮れてきてる!っていうステップアップ感があまりないですから。思い出ゾンビですよ。orzですよ。
── そして、98年にAIR JAM ‘98が開催されました。
ひとつ覚えてることがあって。この年のAIR JAM前にハイスタがアメリカのWARPED TOURに参加して、僕もそれに付いて行ったんですけど、難波さんと小杉さん(Hi-STANDARDの当時の所属事務所社長)が車の中で「スケートのランプがあったり……」みたいな話をしてたんですよ。
── へぇ~。その頃からもう次のAIR JAMのことを考えてたんだね。じゃあ、AIR JAM ‘98の写真を見せてもらってもいい?/p>
これですね。
── これがベストショット?
いや……もう手元にポジがあまり残ってなくて。orzですよ。
── ああ、そうかぁ。この日のことで何か覚えてることは?
「撮りたいんだったらくれば?」みたいな感じでメンバーから言われて、ハイスタだけ撮った記憶があります。他のことはあまり覚えてないんですよね。
── ああいう大きい会場で、しかも昼間の屋外で撮るっていうのは勝手が違って大変だったんじゃない?
分かんないことだらけでしたけど、撮りたいっていう気持ちのほうが強かったし、不安は何もなかったですね。今だったら変な責任を感じて空回りしちゃってたかもしれないけど。
── この写真の裏側からツカサが撮ってたのかな?
ああ、このときはツカサ氏のことを意識しまくってましたね。「なんだこいつ?」って。WARPED TOURのときに健さんから「最近、高校生でバリバリ撮ってる奴がいるんだよ」って揺さぶりかけられて、それにまんまと乗せられて「なんだそれ!?」って意識しまくっちゃって。今は仲良いですけど。
── だよね。
あと覚えてるのは、この頃ってあんまりオフショットを撮ってないんですよね。ライブカメラマンはライブ一本でいかなきゃダメでしょって勝手に思ってたんで。でも、ハイスタの活動が止まって、他のバンドのオフショットを撮るようになってから、「ああ、あん時撮っとけばよかったな」ってすっげぇ後悔しました。それで(AIR JAM)2011は「ハイスタだけに付かせてください」ってお願いしたんですよ。
── 98の反省が13年後に活かされたんだ。
98の頃は変なプライドがありましたね。(AIR JAM)2000も裏をあんま撮ってないんですよ。
── 98と2000でAIR JAMとの関わり方が変わってるよね。98はハイスタだけだったけど、2000は担当制になっていろんなバンドのライブを撮った。
けっこう色々撮れましたね~!
── AIR JAM 2000の写真は?
この1枚しかないんですよ。orzですよ。
── あらら。
結局、僕、今でもそうですけどジャンプが好きなんですよね。ジャンプ選手権とかやりたいですもん。みんな並んでジャンプしてもらって、それを撮るっていう(笑)。
── ジャンプの魅力は何?
躍動感があるし……自分の中でパンクとかハードコアはジャンプが大事だと思ってて。
── ナミキジャンクションで撮った写真もそうだし、最初からジャンプを意識してたんだね。
そうなんです(笑)。20年間変わってないんですよ(笑)! 2000に関しては、ツカサ氏に対して「また撮ってんな、こいつ!」って思ったことと、最後に花火が上がって泣いたことぐらいしか覚えてないですねぇ。
── 泣いたの? なんで?
ちょうどその頃、自分の中でいろいろ考えてた時期だったんですけど、ハイスタを撮ってるときに健さんがこっちを見て笑ってくれたんですよ。
── おお、それはヤバいね。
それでもう、すごい感動して、しかも花火も上がるしで……泣いたんですよ。あの頃、自分の中で焦りとかもあったんでしょうね。若いツカサ氏も出てきてたし。
── 実は、あの時のハイスタの写真って哲平よりも、一緒に撮ってた川田洋司さんの方が良かったんだよね。
そうそう(笑)。「哲平はここぞという時にあまり良くない」って大志くんに言われたのはすげぇ覚えてます(笑)。……ああ、そういえば、WRENCHのシゲさんがライブ中に脱いだのもすげぇ覚えてますね。ステージサイドから撮ってて、「脱いだー!」って。MAD(CAPSULE MARKETS)もすごかったですねぇ。そう考えると、時代を象徴するイベントですよね。
── それから11年が経って、AIR JAM 2011を迎えるわけだけど、哲平も一気に大人になりました。
「オフショットも撮らないと」とか、「学んだことを活かさないと」とは思ってました。
── 事前にいろいろ計算したり。
はい。でも、結局、計算してもダメなときっていっぱいあるなぁって(笑)。
── 実際にシャッター切ってみないとわからない?
そうそう。無我夢中でやるほうが楽しいと思うんですよね。
── では、この年の一枚をお願いします。
これですね。3人を絶対入れなきゃいけないとか、この写真を見て東北の方の気分が上がってくれたらいいなとか、自分の中でテーマがありました。
── 使命感みたいなものがあったんだ。
あと、2000年と違ってこの頃はネットが発達して、写真を伝えるっていう概念が全然変わったじゃないですか。これもライブ後すぐに選んだ写真です。
── これを選んだポイントは?
難波さんですね。右手を挙げてる感じとか、“始動”っていう感じが自分の中であったんですよ。健さんのモーション的な傾きも好きですし、ツネさんはもうとにかく構図にしっかり入る位置を柵前で探りまくってました(笑)。
── 後で見直して、「やっぱりこっちだったな」っていう写真はなかったの?
なかったですね。やっぱりこれでした。これはYahoo!ニュースにも載りましたし、そういう意味でも時代が変わったことを感じた一枚です。
── 2012は?
2012も(写真の)即出しがあったんですけど、このときは(橋本)塁くんの写真が選ばれて。
── 大舞台に弱いの?
弱いんじゃないですか(笑)? さっきの計算の話と一緒で、こうやろうああやろうって考えすぎるとダメなんですよ。2011の写真は好きですけど、このときはいろんな空気を感じまくってたせいでダメでしたね。2012はハイスタの3人が目標にしていたところだったので、とにかくちゃんと撮ろうってことばっか考えてましたね。
── そうだったのか。
でも、ずっと撮ってた同世代のアジカン(ASIAN KUNG-FU GENERATION)が出たのは超うれしかったですね。あとはThe Blue Herbが出たり、RIZEが出たり、2012は出演バンドの幅が広がりましたよね。
── そして、今年。2016ですよ。
ハイスタはもうクラシックだし、ずっと残っていくものじゃないですか。だから、新しい世代のバンドが好きなキッズ達にハイスタがどう伝わるのか楽しみですね。
── 今回、哲平がカメラクルーのリーダーなんだって?
そうなんですよ。
── 今までになかったよね。
そうですねぇ。でも、やることはわかってるんで。あまりリーダーっぽくないと思います(笑)。誰がどのバンドを撮るのかあらかじめ決めて、ハイスタはみんなで撮るっていう。しっかりやります。僕はステージ上に行ったり、ニュース用の写真も撮ろうと思います! 汗かくばい! です! あとは、360度カメラで撮りたいっていう話もしてるし、今のテクノロジーを活かした撮影もしていきたいです。僕らカメラマンも今の時代に合わせていかないと古臭くなっちゃうと僕は思うんで! orzですよ。