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2025.10.06
UNOFFICIAL LINER NOTES ー vol.1 ー
- LINER NOTES

ライナーノーツ企画「UNOFFICIAL LINER NOTES」始動!
過去の名盤や今聞いてほしいアルバムを、勝手に「UNOFFICIAL」に紹介します。
執筆者:ぴあ株式会社 山本 慎二
過去の名盤や今聞いてほしいアルバムを、勝手に「UNOFFICIAL」に紹介します。
執筆者:ぴあ株式会社 山本 慎二
Let's GO/RANCID

小早川という男がいる。愛知県豊橋市で生まれ育った俺が高校入学時に知り合った友人である。このエリアでは進学校と言われる公立高校に共に進学した俺達は高校1年~3年生まで同じクラスで多感な時期の長い濃密な時を共にした。
隣接する岡崎市から通っていた彼は入学時から異質であった。既に映画と文学に精通しており、進学校に通っていたにも関わらず「自分は芸術大学に進み、映画監督になりたい」という目標を掲げていたこの男は入学2日目には「名古屋の名画座で実施されている名画3本立てを見る必要があるから」という理由で早速欠席。翌日も遅刻して教室に現れた彼は悠然かつ飄々と悪びれることなく、肉体労働者が持参するような保温ジャーのような弁当を手に通学。そのくせ小柄で短髪。学内の式典での国歌斉唱はいつも拒むような変わった男であった。
偶然か必然か、仲良くなった俺はこの男から多大なる影響を受けた。ジム・ジャームッシュ、SABU、ポストマン・ブルース、カプリコン・1、寺山修司、町田康、坂口安吾、デガダン、リリシズム、退廃的。今なお自分を形成するカルチャー嗜好性の多くの割合は小早川の影響で形成された。
ある日の帰路。ママチャリで寄り道した豊橋駅前。あてもなく時間を潰す日常の中、駅前の「明豊ミュージック」というCDショップに立ち寄った俺達。ふと小早川が真っ赤なジャケットのそれを俺に手渡し、「お前にはこういうことなんじゃないかな」と渡されたCDがRANCID「Let’s Go」であった。あまりにも名盤ゆえ読者の皆様には説明不要の一枚だが鋲ジャン&モヒカンの伊達男たちのサウンドは1990年代の俺達の思春期を赤く塗り替えた。
振り返れば。
思えば中1の冬、期末試験で良い成績が取れた見返りに我が家に初めて導入されたミニコンポ(この時代の流行)とともに最初に自分の小遣いで買ったCDはX JAPAN「BLUE BLOOD」。そこからのめり込む様に聞いた音楽はどれもメロディアス/疾走感溢れるものであり、その結果の必然としてHR/HMを貪り、その結果の必然として日本の音楽を軽視し、その結果の必然として洋楽至上主義に傾倒。そこに必然として加わる多感な高校時代特有の反体制へのある種の憧れ。それらを全て内包し、パンクスとして強いアティテュードを持ちつつ、非常にポップなサウンドは当時の俺に対する初期衝動としてはあまりにも十分であった。高校時代にバンドを組んでいた俺だが何故かRANCIDだけはカバーしなかった。今思えば「カバーすべきでない」と考えていた気がした。穢れが無いものであった。今なお。
そして46歳になった今でもSpotifyの個人端末の再生ランキングは毎年RANCIDがTOPランカーだし、今でも周囲に「自分が死ぬときはRANCID『Fall Back Down』で見送られたい」と発言を繰り返し、そしてこの曲にふさわしい生き方をしたいと年々強く思う晩夏。
余談だが小早川はその後芸術大学を経て放送作家となり、映像に関わる仕事をしている。数年前に東京で再開し、久々の杯を交わした際、俺のスマートフォンの待受画面(RANCIDロゴ)を見るやいなや「お前がいい意味で高校時代の初期衝動から今なお離れられていないことが嬉しい」と伏し目がちに焼酎を流し込みながら呟く小早川の所作もまた高校時代から変わらず。褒められたと認識した俺は、今更ながら小早川に認められることがこんなにも嬉しいと気づき、気づけば痛飲の恵比寿の夜。
発売日:1994年6月21日
レーベル:Epitaph Records