バリトン大西宇宙がオケ伴リサイタル。40代・円熟の声で切り拓く第2章

2026.10.05

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大西宇宙40代・円熟5

いま最もノーブルで二枚目な声を持つバリトンだ。オペラにコンサートに引っ張りだこの大西宇宙(たかおき)が、来年1月8日(金)に東京オペラシティコンサートホールでオーケストラ伴奏による単独リサイタルを開く。日本人のバリトン歌手がオーケストラをバックにリサイタルを開くのはかなりレアな機会だ。

「40代を迎え、年代をまたぐ節目。これからの活動をより色濃いものにしていきたい」と語る大西。アメリカでのデビューから12シーズン目。声が成熟期を迎え、より深い役柄へと移行していく今を自ら「第2章」と位置づける。開催に先立ち都内で行われた記者懇親会は、一人の音楽家が歩んできた着実な道のりと未来を照らし出す時間となった。

スター・バリトンの原点は、吹奏楽部でチューバを吹いていた中高時代にある。小遣いを貯めては演奏会に通う音楽少年だった。中学生の頃、テレビで観た「BBCプロムス・ラストナイト」の熱狂に深く感動し、録画したVHSビデオを擦り切れるほど観た。指揮者は英国の名匠アンドルー・デイヴィス。後にシカゴ・リリック・オペラの若手育成プログラムに選ばれた際、劇場の音楽監督として目の前に現れたのが、デイヴィスその人だった。

同じエレベーターに乗り合わせた機会に、少年時代の自分があのコンサートにどれだけ心を躍らせたかを興奮気味に伝えると、巨匠は「(今日ここで会うまでに)ずいぶん時間がかかったね」と英国風の皮肉っぽいユーモアを交えて応えてくれたという。

大西のキャリアは、一歩一歩の地道な積み重ねによって拓かれてきた。新聞でジュリアード音楽院のオーディション告知を見たとき、「これは自分のためにある」と直感して渡米。

シカゴ時代には、《エフゲニー・オネーギン》の公開ゲネプロで、終幕のクライマックス直前に主演歌手が突然降板するハプニングに直面する。「演出助手から『できるよね?』と聞かれ『Yes』と答えた瞬間に次の音楽が鳴り始めた。あと2分で舞台に出なきゃいけない(笑)」。この代役を見事に歌い切って大歓声を浴びた。

2019年にはセイジ・オザワ松本フェスティバルで、奇しくも同じ《エフゲニー・オネーギン》の題名役をやはり急遽代役で演じて日本デビューを飾った。奇跡の連鎖のようにも見えるが、大西は「何かひとつの大きな起爆剤があったというより、すべてが線でつながってきた」と振り返る。


©Taira Tairadate

そんな確かな歩みを重ねてきた彼が、今回のリサイタルでタッグを組む指揮者は、2022年の新国立劇場《愛の妙薬》で共演し意気投合したガエタノ・デスピノーサ。大西が「自分の声やレパートリーを熟知し、バリトンとしての歩みをガイドしてくれるメンター」と全幅の信頼を寄せるマエストロだ。

ふたりが3年近くかけて練り上げたプログラムで貫かれているのは、「作曲者本人が手がけたオーケストレーションのみを取り上げる」という徹底したこだわりだ。「本当は有名曲やレーガー編曲の《魔王》なんかも入れてチケットを売りたかったのですが(笑)、デスピノーサから『作曲者本人のオーケストレーションがないものは外そう』と提案がありました」。

結果として、作曲者によるオーケストラ伴奏版があるマーラーの《リュッケルト歌曲集》やR.シュトラウスの《4つの歌曲》作品27からの3曲をはじめ、上述のように大西自身の転機となった《エフゲニー・オネーギン》のアリア、さらにはワーグナーや、ヴェルディ《ドン・カルロス》のアリアまで純度の高いラインナップが揃った。

「《ドン・カルロス》も、オリジナルであるフランス語版にこだわりました。ヴェルディが想定した言葉の流れだからこそ引き出せるメロディの美しさがあるんです」とこだわりを覗かせる。


©Taira Tairadate

こうした選曲の背景には、40代を迎えた大西自身の声とメンタルの円熟がある。「声が出るから歌うというだけでは不完全で、声の深みとキャラクターの深みを同時に出さなければいけない。身体の変化や経験値によって、その役のなんたるかを表現できる段階が変わってくる」と語る大西。レパートリーを慎重に見極めてきたなかで、ジェルモンなどヴェルディの円熟した声で演じる役柄を少しずつ解禁しつつある。今後は、今回もアリアを歌う《ドン・カルロス》のロドリーゴ役や、《運命の力》のドン・カルロ役、《タンホイザー》のヴォルフラム役なども視野に入れる。

「正しいテクニックで歌い続ければ、おのずと歌うべき道が見えてくる。哲学的に深いレパートリーなどもさらに掘り下げていけたら、60代になってもハッピーに歌っている自分がいるはず」と語る彼の眼差しは晴れやかだ。「第2章をやるからには、いつかきっと第3章もやりたいと思っています」と笑顔で締めくくった彼が切り拓く新たなステージ。

共演は、プロジェクトごとに腕利きの奏者たちが集う「ザ・オペラ・バンド」。声とオーケストラが豊かに溶け合い、響き合う贅沢な空間──大西宇宙が解き放つ「第2章」の幕開けを、ぜひ客席で!

取材・文:宮本明
画像:©Taira Tairadate

大西宇宙 バリトン・リサイタル with オーケストラ
指揮:ガエタノ・デスピノーサ
2027年1月8日(金) 19:00開演
東京オペラシティ コンサートホール

■チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2669918

 
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