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『マーラー5.0』に関する覚え書き/新垣隆

2026.10.05

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新垣隆アー写

11月8日(日)開催、第4回タクティカートオーケストラ定期演奏会
本公演で世界初演を迎える新作「マーラー 5.0」について、作曲を手がける新垣隆より創作の背景を綴った「覚え書き」が届きました。
ぜひ最後までご覧ください。


はじめに

現在の若い世代のメンバーによって構成され、クラシック音楽のみならずアニメやゲームの音楽なども積極的に手掛けることによって「今日におけるオーケストラ活動」を実践するタクティカートオーケストラから「今回グスタフ・マーラーの交響曲第5番をメインプログラムに据えるにあたり、その前置きとして、またこれからマーラーに触れようとする人々に対する紹介の意味も込めて、彼の交響曲第1番から第4番までのダイジェストの楽曲を準備して欲しい」旨の依頼を受けた。

私は二つ返事で承諾した。

ここから先はこの趣旨を受け取った私の個人的な見解である。


G・マーラー(1860-1911) は番号のついた交響曲が9つあり、5番は数字的に丁度真ん中(1〜4、5、6〜9)にくる。それをそのまま「5番を境に1〜4番を前期、6番〜9番を後期」とし、「5番は前期、後期それぞれの特徴を併せ持ったもの」とする。
今回のコンサートはこのようなマーラーの交響曲を代表するものとしての「第5番」、更には「交響曲」というジャンルそのものを代表する作品、として広く世に紹介するという機会、と捉える。

であるから「1番から4番までの前期作品のそれぞれの名場面を繋げてメドレーとし、それを前奏曲として、いよいよ本編の交響曲第5番を迎える。」というのは理に適っている。この新たに付け加える前奏曲は『交響曲第5番第0楽章(5.0)』なのだ。

もちろんこの第5交響曲を交響曲というジャンルそのものを代表する、ということには専門家や愛好家の間では異論もあるだろう。というよりこれを代表と見るのは実は少々無理がある。むしろこの曲(そしてマーラーの交響曲全て)は謂わば「交響曲の異形」である。
だから改めて言い直すと「この異形の交響曲を私は敢えて交響曲の代表と看做す。それで良い。」である。

この第5交響曲の成立時期は20世紀初頭。もう今から120年程前の音楽作品なのだが、その時点で既に交響曲は異形化していた。大事なことはこれである。

そもそも交響曲とは何か。

だがここでそれを簡潔に説明する術を私は持っていない。今、取り敢えず確かなことは交響曲というものが、このタクティカートオーケストラのような「今日におけるオーケストラ活動」の中にある何物か、ということだけだ。
つまり現在の21世紀において「オーケストラ音楽のメインは交響曲である」という今までのヨーロッパ芸術音楽の歴史における了解事項が必ずしも自明ではない、という状況認識に立って私はこの文章や作曲に取り組んでいる。


『マーラー5.0』解説

冒頭は実際は第1番からは始まらず、「交響曲第2番の第5楽章の冒頭部分」で始まる。というのは映画『スターウォーズ』やL・ベリオの『シンフォニア』などを通過した私たちにとっては、それしかないのだ。
その圧倒的なオーケストラサウンドの序奏を経ていよいよ第1番から順々に第4番まで「流暢」に流れていく。
それぞれの曲のどの部分を抜き出すか、に関しては殆ど迷わなかった。何故かはわからない。依頼を受けて二つ返事した時、既に「まあなんとかなるだろう」という思いがあり、実際なんとかなった。
問題はそのあとである。
後半、第4番の第1楽章の終結部分に向かって行きそのまますっきり終わるかと思いきや、音楽はあらぬ方向へ行く。
流麗さとはうって変わって時間は乱反射し、マーラーの旋律のみならず他のクラシック音楽作曲家の旋律や楽想も現れて混沌の渦となる。
それをブラックホールのように飲み込む最低音のC(ド)のペダル音。
ここで冒頭の似ても似つかない再現となり、そこからある和音ーこれはとあるマーラーに私淑する作曲家がマーラーの葬儀のあと、その想い出として譜面に書きつけたもの(シェーンベルク『6つのピアノ小品』第6曲 冒頭和音)ーが出現し、その瞬間、ペダル音CがB♯の異名同音に読み替えられて突如、不意に終わる(そして「ここで5分以上の休みを置くこと」というマーラーの総譜の中にある言葉をここに引用し、本編交響曲第5番第1楽章《葬送行進曲 嬰ハ短調》が始まる)。

尚、私は当日、会場にはいない。別の場所で「幽霊ピアニスト」役としてステージに立っている。


《公演情報》

第4回タクティカートオーケストラ定期演奏会「マーラー5.0」
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2670778

■日時
2026年11月8日(日)17:00開場/18:00開演

■会場
横浜みなとみらいホール 大ホール

■曲目
新垣隆「マーラー5.0」/マーラー「交響曲第5番 嬰ハ短調」 

■出演
指揮:
チン・ソル
演奏:タクティカートオーケストラ

■チケット種別
A席:4,000円 学生席:2,000円(※学生席は公演当日に身分証の提示が必要です。未就学児は入場不可。)

 
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