反田恭平と名門ザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団による、2027年の日本ツアーが決定した。2024年に指揮者兼ピアニストとして初共演し、一瞬にして「相思相愛」になったという両者。2025年のザルツブルク音楽祭デビューを経て、ついに日本各地を巡る。ツアーへの想い、そして音楽家としての現在の心境を聞いた。
「初共演したのが2024年の5月。そこから少しずつ話が膨らんでいき、2027年3月のツアー実施まで丸3年かかりました。やっと実現する、という気持ちです。
モーツァルテウム管弦楽団とはとても強い繋がりを感じています。初めて共演した時から、彼らはすごく人柄がオープンだったし、僕のやりたい音楽を突き詰めていったら、結果、最高に楽しく演奏できた。公演が終わったら、多くの団員が一人ずつ楽屋に挨拶しに来てくれて、最後はオケ全員がビールで乾杯してくれました」
じつは2024年の初共演を前に、すでに次の共演が決まっていたという。2025年にはザルツブルク音楽祭に初出演。指揮者として1公演をすべて振りつつ、協奏曲では独奏も弾くというスタイルは同音楽祭史上初というデビューだった。
「ヨーロッパの楽団は、ソリストや指揮者を次も呼びたいかどうか投票で決めるのですが、その時はリハーサルの段階で投票してくれたみたいなんです。今年も10月にメンデルスゾーンのピアノ協奏曲第1番を弾きますし、毎年共演が続いています。とても高い評価をいただいているようなので、それぐらい関係は良好だと思います」
モーツァルトの生地ザルツブルクで長い伝統を培ってきたモーツァルテウム管弦楽団。その強みを、反田は「オーストリアのサウンド」と「完全に“モーツァルトの型”を持っていること」だと語る。
「彼らの強みは、まず“オーストリアのサウンド”です。ウィーン・フィルもそうですが、ひとつのセクションがひとつの指、ひとつの手になって、ひとつの音楽を作り上げることができる伝統があるのが素晴らしい。
そして完全に“モーツァルトの型”を持っていることに驚かされます。フレーズの語法、歌い方、弓の使い方、ビブラートの扱い方、指板の指にどれぐらいのエネルギーをかけるのか。そういったことが音として還元されているので、指揮者が言わなくても出来上がっているんです。初日の合わせが、通常の2日目のリハーサルぐらいのレベルから始まるので、じゃあそこからどういうモーツァルトを作っていこうかという話し合いができる。本当にタイム・パフォーマンスがいいですよね。 とても理想的なオーケストラの在り方だと思います。ここまでモーツァルトのことを尊敬しているオーケストラも、なかなかありません。彼ら自身もそれができているという自覚もあるので、変なプレッシャーがなく、自由に息を吐くように出てくるのだと思います。
もちろんザルツブルクのオーケストラならではの誇りを高く持っているので、僕のアイディアに『そうじゃない』と意見をくれることもあります。それはもうめちゃくちゃウェルカムで、すごく勉強になる。でも逆に、僕から『こうしたほうがいいんじゃない?』と提案すると、『あ、そうか。そうしてみよう』とすごく柔軟で。音楽は自由だということを根本的に理解しているオーケストラです」
©Hiromichi Hoshiya
2027年の来日ツアーも「オール・モーツァルト・プログラム」。初期から晩年の作品までが並ぶこだわりの構成だ。
「何百曲も書いていても、どうしてもメジャーどころの作品ばかりがフィーチャーされがちなのですが、今回は比較的初期の劇音楽の《エジプトの王タモス》の「4つの間奏曲」から始めます。そしてモーツァルト最後のピアノ協奏曲第27番は、われわれの相性がいちばんよく伝わるかなと思います。モーツァルトが35歳で亡くなる年の作品。僕は今31歳で、まだまだエネルギッシュな年齢ですが、モーツァルトはもう死を見据えていて、優しさや静かな光がとてもうまく落とし込まれています。
後半ではAプロ、Bプロで異なる《セレナード》で少人数の密なアンサンブルをお届けしたあと、《ロンド》K.382を弾きます。幼い頃のピアノ協奏曲第5番の第3楽章を書き換えた珍しい作品です。いつか弾いてみたいと思っていたのですが、なかなか弾くチャンスがなくて。そして交響曲第31番《パリ》。モーツァルトが当時のパリの聴衆を驚かせてやろうという演出にこだわった作品で、足取り軽くコンサートホールを後にしてもらえる華やかな作品です」
今回も指揮者兼ピアニストとしての共演であるように、ピアノだけでなく指揮の活動範囲も広げているが、もともと小学生の頃から指揮者にあこがれ、そのために始めたのがピアノだった。その後、ピアニストとして歩み、ついにショパン・コンクールにも挑戦することになる。
「優勝したらピアノをやめて指揮だけにしようと思ってました。かっこいいじゃないですか(笑)。
でも、あのコンクールをきっかけに、いろんな国でいろんな人が僕のピアノを待ってくれていることを知って、もっと頑張りたい、上手くなりたい、と素直に思うようになりました」
「指揮とピアノ、楽しいのはどちら?」と尋ねてみると、慎重に「指揮……」という答えが返ってきた。
「大変なことはたくさんあるし、ピアノとは違うベクトルなんですけどね。一人っ子で、もともとみんなと何かやりたいっていうのが強いし、幼少期からサッカーもやっていたので、みんなでひとつのゴールに向かって進もう!という姿勢が好きなんだと思います。そう簡単にはできないですけど、50人、80人が同じ方向に向かった瞬間の音楽ほど幸せなものはないですね。人数がいるぶん、幸せも何倍にもなるんです。
もちろんピアノと両方やっていることはポジティブに考えています。ピアノが成長すれば指揮者としての視野も広がって成長できるし、指揮でしか体験できない音楽をピアノに落とし込むこともできるのです」
一方で、そんな「二刀流」の大変さは、先輩たちからも聞かされている。
「ダニエル・バレンボイムさんとは何度もお会いする機会があって、『ウェルカム! ようこそ、この最悪な世界へ。君もこっちに来ちゃったか』と笑いながら言われました(笑)。ミハイル・プレトニョフさんも『いや、やめとけ』って。でもきっと僕も、将来、同じことを言う後輩が来たら、『やめとけ、大変だから』って言うと思います」
演奏活動の先にも、音楽祭や学校、コンクールなど、音楽界の未来を見据えた構想を持つ。
「ちょっとお節介な人間なんです(笑)。自分の演奏だけに集中すればいいのに、音楽界の未来や子供たちのことを考えると目を逸らせない。たとえばあのショパン・コンクールでさえ、優勝賞金でスタインウェイ1台買えないわけです。それぐらいの賞金を出したほうがいいと思うんですよね。現時点ではメディアに出る機会も多いのでそれを発言していますが、けっして上に立ちたいわけではなく、本業は演奏家なので、志を同じくする仲間がもっと増えていってほしいと思っています。
この数年は、子供との時間をいちばんに大事にしたいと思っていました。世の中の親御さんと同じように、悩むこともたくさんありますが、子供と一緒に気長に成長していけたらと思っています」
指揮者、ピアニスト、そして一人の父。そんな等身大の反田恭平が、強い信頼関係を築いてきたモーツァルテウム管弦楽団とともに届ける、自由なモーツァルト。2027年春、彼らが響き合う幸せな時間を楽しみに待ちたい。
取材・文:宮本明
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反田恭平&ザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団 日本ツアー2027
■チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2669978
2027年3月15日(月)
ミューザ川崎シンフォニーホール 【プログラムA】
2027年3月25日(木)
東京オペラシティ コンサートホール:タケミツメモリアル【プログラムB】

