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森麻季 インタビュー ~9月19日のリサイタルに向けて~

2026.07.28

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森麻季2

9月19日(土)、東京オペラシティコンサートホールでのリサイタルを行う森麻季。「愛と平和への祈りをこめて」と題したリサイタルシリーズを始めたきっかけから、今回のプログラムに込めた特別な想いまで、オペラ批評家の香原斗志さんに取材いただきました。

「愛と平和への祈りをこめて」――。この希求は人生そのものだと思う。争いを前にして、自然の猛威を前にして、人は愛と平和への祈りをこめる。そんなときこそ歌は心を支えてくれる。そう強く自覚している森麻季だから、このテーマで15回もリサイタルを重ねることができた。事実、森の歌には聴き手の心を解きほぐし、時に揺さぶる力がある。それは、「愛と平和」への思いが森のなかで血肉化され、卓越した歌唱の支えになっているからである。

「このリサイタルをはじめたきっかけは、9.11のテロのとき、真っただ中のワシントンで歌っていたことが大きいです。広島と長崎の平和記念式典で市民のみなさんとご一緒し、《レクイエム》を泣きながら歌った経験も影響しています。続いて、東日本大震災が発生し、その半年後の、日本がまだ大きな悲しみにつつまれていた時期に初めて開催しました。被災した方々に寄り添いたい、という思いがありました。素敵な曲をみなさんと楽しむコンサートもいいですが、このリサイタルでは音楽をとおして、いま平和や、日常生活を無事に送れていることが、じつは当たり前ではなく、とてもありがたいことなのだ、と気づいてもらいたいのです。そんな時間にできたら、と思ってプログラムを組んでいます」

とりわけワシントンでの、人生観がひっくり返るほどの強烈な体験が、「愛と平和」への思いに原点になっているという。

「ワシントン・ナショナル・オペラで《ホフマン物語》のオランピアを歌う直前にテロが起きました。劇場は襲撃されたペンタゴンやホワイトハウスとは地下鉄で隣の駅。危険なはずですが、みなさんテロに屈しないという気持ちが強く、3日後の公演はほぼ満席で、終演後はスタンディングになったんです。『芸術が平和を呼ぶように』というかけ声がいくつもかかり、いまでも思い出すと涙が出ます。それまで歌手とは、楽しみを提供する職種だと思っていましたが、劇場に来てくれた方々と心を一つにし、一緒に困難を乗り越える力があるんだな、と初めて気づきました。以後、舞台に立つことや演奏することの意味が、自分のなかで変わった気がします。 それまでの自分は、難しいことを習得するとか、高音を完璧に出すとか、技術的なことばかり考えていました。技術を高めて私にしかできないなにかをできるようにする、ということばかり考えていたんです」

プラシド・ドミンゴ主宰の「オペラリア」に入賞し、ワシントンではアンナ・ネトレプコとダブルキャストが組まれるほどの順風満帆なスタートを切った森だが、それほど力があったからこそ、歌の意味の「変化」にも対応できたのだろう。

海

「3.11のあとは〈花は咲く〉や〈Stand Alone〉も歌いました。とくに後者には、なにがあっても前を向いていこうというメッセージが込められ、聴いた方から『心が救われた』『前向きな気持ちになれた』というお言葉をいただきました。音楽は直接なにかができなくても、メッセージは届けられるんだな、と実感しました。津波の被害が大きかった場所でも歌いました。これまで生活と深く結びつき、地域が恩恵を受けてきた海。それが大切な街や家、大切な人たちを流しまった、という複雑な思いをいだいていらっしゃると痛感しました。だからリサイタルでは、そういう方々に少しでも寄り添える詩を選んできました」

そうやって積み重ねたリサイタルが16回目を迎える。その間、森の声も森自身も成長を重ねてきた。当然、それは歌に反映される。

「キャリアの初期には軽い声で歌う曲が中心でしたが、徐々にドラマティックなレパートリーも歌うようになっています。以前は自分の声に、軽すぎて頼りないという思いもありましたが、深みや丸みが加わり、ちょうどよくなってきました。これまでは技巧的な歌を歌うことが圧倒的に多かったのですが、心に直接響く歌も、少しずつ歌えるようになってきたと感じています。コロラトゥーラや高音に頼らずに聴かせられる歌です。なので、今年はこれまで歌ったことのない日本歌曲をたくさん選んでみました。お客様に言葉として、情景を直接届けられる日本歌曲。いままで培ってきたものを総動員して、いまだから歌える歌を届けられたら、と思います」

もちろん、前半ではヨーロッパの作品もたっぷり味わえる。それと日本歌曲との対比も楽しみだ。

「ドイツやイタリアの作品は、愛や悲しみをとても直接的に表現しますが、日本歌曲はむしろそれらを自然のなかに溶け込ませ、切なさを感じさせる、もの悲しい雰囲気のものが多いです。色彩でいえば、鮮やかな原色ではなく淡いパステル調ですが、繊細な色彩感覚が美しく広がっている、と感じています」

森が「こう表現したい、という私の気持ちを、私以上に理解していると思える方」と語る山岸茂人のピアノを得て、祈りはまたいっそう深く届くことになりそうだ。

取材・執筆 香原斗志(オペラ批評家)

森麻季 写真

愛と平和への祈りをこめて Vol.16
森麻季 ソプラノ・リサイタル

■チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2667313

9月19日(土) 東京オペラシティ コンサートホール

 
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