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15年の歩みの先へ。金子三勇士が見つめるベートーヴェンとリスト

2026.07.24

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miyuji kaneko_©Seiichi Saito1

ピアニストの金子三勇士がデビュー15周年記念リサイタルを開く。節目への思いを聞いた。

会場は15年前のデビュー・リサイタルの場所でもある。

「私にとって“帰ってきたい場所”です。節目のリサイタルは絶対にここで、と決めていました。じつは、うれしい理由がもうひとつあります。ホールに新しく納入されたスタインウェイの選定を担当させていただいたんです。弾き込みにも通いました。もちろんホールのピアノなので、多くの演奏家が一緒に育てていく楽器ですが、やっぱり少し特別です。自分が選んだピアノの響きをぜひ聴いていただきたいです」

プログラムはベートーヴェンとリスト。前半にベートーヴェン《月光》《悲愴》《熱情》、後半にリスト《ピアノ・ソナタ ロ短調》。「15年はようやく立ったスタートライン」と語る金子が、次なるステップへの決意を込めて選んだプログラムだ。

「デビューが2011年。災害やコロナ禍など、大きく揺れ動く社会のなかで、クラシック音楽の魅力をひとりでも多くの方に届けることを大切にしてきました。それはこれからも変わりません。でも15年がたち、『何を届けるか』にもフォーカスできる時期が来たと感じています。今回はすべてソナタ。『親しみやすい名曲だけのピアニストではない』ということも、あらためてお見せしたかった。
デビュー当時から聴き続けてくださっている方も本当に多く、皆さんと一緒に次のステップへ向かうタイミングになったのかなと思っています」

ベートーヴェンとリストというふたりの作曲家は、金子の原点でもある。

「私がハンガリーで学んだ先生方はリストの流れを受け継ぐ音楽家たちばかり。私はリストから数えて6代目の弟子に当たります。そのリストの師がチェルニーで、チェルニーの師がベートーヴェンですから、私にとって、この二人は切り離せない存在なんです。
クラシック通の方なら、『節目なのだから、ベートーヴェンは後期の頂点の《ハンマークラヴィーア》や作品111を弾くべきでは?』と思われるかもしれません。でも、まずは会場に来ていただかなければ発信になりません。そのバランスは大切にしたいと思いました。かといってリストのソナタは譲りたくない。するとベートーヴェンは、コンサート全体の時間を考えれば《悲愴》と《月光》? それとも《悲愴》と《熱情》? いや、それでは本気度が伝わらない。そう思いまして、いわゆる三大ソナタを一気に弾いてしまおう!と、このプログラムに落ち着きました」

もしベートーヴェンやリストが生きていたら、現代のピアノとどう向き合ったか。そんなことを考えるのが好きだという。

「もちろん、当時の楽器と現代のスタインウェイは違いますから、当時の奏法をそのまま再現するということはしません。ただ、私が注目したいのは、そこで作曲家が何を表現したかったのかということ。もちろん正解はありません。でも、それを追求していくことで、心地よく響くけれども、他の演奏とはちょっと違う、『これが作曲家の求めた響きだったのでは』と思える瞬間に近づけたら最高ですね」

たとえば《悲愴》の第2楽章。この数年、ベートーヴェンの交響曲のリストによるピアノ編曲に取り組んできた経験から、ベートーヴェンが頭の中で鳴らしていたであろう楽器の姿が見えてきたという。

「あれはもう完全に弦楽四重奏なんですね。そう捉えて弾いてみると、よくピアノで演奏されるように、メロディだけが大事で他の声部は伴奏みたいなバランスにはならない。第1ヴァイオリンだけがずっと主役ではなく、内声が生きる瞬間もあれば、ベースラインをもっと生かす瞬間もあるはずです。そういう組み立て方をしていくことで、作品の表情がずいぶん変わってくる気がしています」

《熱情》については、ハンガリーのルーツを持つ彼ならではの独自の視点が光る。

「終楽章の急速なコーダは、ハンガリーの民族舞踊チャールダーシュなんです。これはもう断言できます。ベートーヴェンは絶対にチャールダーシュを意図して書いている。チャールダーシュは、最後の締めの踊りなんです。いちばん速くていちばん激しい。まさに《熱情》の最後のように、スピード感も熱量も違う世界が突然始まるのが大きな特徴です。私も、ハンガリー人が感じるチャールダーシュとして弾かせていただきます」

リスト《ピアノ・ソナタ ロ短調》も、この15年で作品の見え方が大きく変わったという。

「ソの一音で始まり、シの一音で終わります。小さな始まりがあって、最後はまた静かに自然へ還っていくような感覚。私は、人間の人生もこういうものなのかな、と感じています。
ただ、若い頃はあの作品の暗さや悪魔的な世界観に惹かれていました。でも今は、そこに未来への希望を強く感じます。人生も時代も苦しい時と良い時を繰り返しながら前へ進んでいく。そのことを、この作品は語っているように思えるのです」

金子三勇士 写真

©Seiichi Saito


15周年を迎えて、「21世紀のリストになりたい」という大きな決意も表明している金子。その理由は、リストの生き方への共感にある。

「リストは自己満足で終わらず、世のため人のために生きた作曲家です。それは作品からも伝わってきますが、彼の人生を知ると、その思いはいっそう明らかになります。華やかなヴィルトゥオーゾとして成功した後には、一線から身を引いた時期もあって、人間としての考え方も変わっていったはずです。そうした人生の変遷も、リストを語るうえで欠かせない魅力だと思います」

AIの時代になっても、生の演奏でしか生まれない瞬間があると金子は信じる。

「ステージで、『人間だから、この瞬間を生み出せたんだ!』と感じることがあります。演奏者とお客さまが同じ空間と時間を共有するからこそ生まれるものがある。今回も『来てよかった』『やっぱり生の演奏はいいな』と思って帰っていただけたら、それが何よりうれしいですね」

新たな15年への第一歩もまた、その日、その場でしか生まれない音楽とともに刻まれる。


TOP写真:©Seiichi Saito

日本デビュー15周年記念 金子三勇士 ピアノ・リサイタル
10月18日(日) 16:00
東京オペラシティ コンサートホール
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2667314

11月15日(日) 13:30
鳥栖市民文化会館 大ホール
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2622598

 
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