キャストを見て、なんて贅沢な配役かと驚くと同時に、よろこびが込み上げてきた。リヒャルト・シュトラウス最晩年の傑作「4つの最後の歌」を、マリーナ・レベカの歌で聴けるなんて、想像を超えている。
というのもレベカは、筆者が現在もっとも高く評価しているソプラノなのだ。客観的に評価するのはもちろんのこと、もっとも好きで、いちばん聴きたいひとりである。むろん、そう思う根拠がある。
レベカの歌をはじめて聴いたのは2008年、伊ペーザロのロッシーニ・オペラ・フェスティバルで上演されたロッシーニ《マホメット2世》だった。まだデビューから間もなかったが、輝かしい高音に加えて中音域が充実し、芯がしっかりした声に多彩なニュアンスを加えていた。なにより響きが華やかで、しびれるような官能性も帯びていた。近いうちにすごいことになると思ったら、その通りだった。
以後、ザルツブルクやペーザロなど各所で聴いてきたが、裏切られたことがない。その声は艶やかで深く、響きの質感が高い。十分なボリュームを活かした劇的表出力にも長け、加えるニュアンスも多彩だ。そのうえ精神性が高い。これだけの要素がひとりのソプラノの声に同居することは、滅多にない。
ヴェルディ《ラ・トラヴィアータ(椿姫)》より©Luciano Romano
2019年に日本で披露したヴェルディ《ラ・トラヴィアータ(椿姫)》のヴィオレッタもよかったが、2023年にパレルモで聴いたベッリーニ《ノルマ》の題名役は傑出していた。しっとりとした深い声ですべての音が繊細になぞられ、研ぎ澄まされた弱音は絹のような光沢を帯び、いざ強い感情を表すと、声は厚みを増して力強く駆け上がり、そこに官能的な色彩までが加わった。
じつは、ノルマ役に求められる表現は、「4つの最後の歌」で問われる表現と重なる。レベカがこれを歌いたくて歌手をめざしたというノルマ役は、弱音と強音の間を自在に行き交いながら、色彩とニュアンスを加えて表現すべきものだと、筆者は考えている。
「4つの最後の歌」も、魔術的なオーケストレーションによる色彩の波のなかで、生と死を見つめながら、心の色を自在に描かなければならない。
得意なドイツ語の美しさも含め、この曲はレベカとの相性が抜群だろう。しかも指揮者はロレンツォ・ヴィオッティである。この若きマエストロのR.シュトラウスは、弱音と色彩にこだわって、オーケストラを細やかに、かつ美しく鳴らす。世界で一番美しいかもしれないこの音楽が、いったいどこまで美しくなるか、ヴィオッティのもとでレベカが歌うとなると想像もつかない。
文:香原斗志(音楽評論家)
TOP:マリーナ・レベカ©Tatyana Vlasova
東京交響楽団
5月23日(土) 14:00 開演
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2664793
5月24日(日) 14:00 開演
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2664785
ミューザ川崎シンフォニーホール
R.シュトラウス:4つの最後の歌
ラヴェル:バレエ音楽「ダフニスとクロエ」
指揮:ロレンツォ・ヴィオッティ(東京交響楽団第4代音楽監督)
ソプラノ:マリーナ・レベカ
合唱:東響コーラス
合唱指揮:河原哲也

