「初めまして!ポーランド出身のカウンターテナー、ヤクブ・ユゼフ・オルリンスキです!」
2024年秋の東京で、彼に面会すべく頼まれたとき、ただただ驚いた。「あの若手スター歌手が、あんなに忙しい人が、本当にプライヴェートで日本に観光旅行に来ているのか?しかも、自分から積極的にインタビューに応じるとは…」そう思ったのである。
そして約束通りの時間に、Tシャツ姿で彼は現れた。30代半ばで既に世界的なオペラ歌手ながら、オルリンスキは本当に素朴な人柄の持ち主であったのだ。
「昨日、東京に着いて、いきなり街中を歩き回りました。ガールフレンドと一緒に歩いたんです。昨日だけで20kmも(笑)。でも疲れていないです。全然! 東京はとてもエキサイティングで、見るものすべてが面白いんだよ! 日本でも近いうちに歌えたならば嬉しいです!」
こんな風に、矢継ぎ早に彼は語ったが、それから1年半後、初の来日コンサートがついに実現。4月の兵庫と東京で、彼は2回ステージに立つとのこと。そこで今度は、ワルシャワの実家に居たオルリンスキに、オンラインで抱負を訊ねてみた。
「日本の皆さまに歌声を聴いていただける機会がやっときました!まず、兵庫は京都と近いそうですね。実は、前回の旅行の折、京都で彼女にプロポーズして婚約したんです! だから、関西地方を再訪できることが嬉しくてしょうがないです!(笑)。そしてもちろん、東京も楽しみです。一昨年の来日時、合唱団のキングズ・シンガーズのコンサートを聴いて驚きました『物音ひとつしない。日本のお客様はここまで真剣に音楽を受けとめて下さるんだ!』って。だから僕も全力を尽くします!」
(C)Jiyang Chen
それでは、待望のその初リサイタルのプログラムを伺おう。
「前半は、バロック期の曲で纏めました。ヘンデルの有名なオペラ・アリアや、英国のパーセルの歌曲〈バラの花よりも甘く〉や〈音楽が愛の糧であるならば〉をお届けします。昔のカストラート(去勢歌手)に代わって、現代ではカウンターテナーが主に歌うレパートリーですね。また、今回はピアノ伴奏で歌います。親友のミハル・ビエルが弾いてくれるから心強いです!」
成人男性が裏声(ファルセット)で全音域を歌うカウンターテナーにとって、17世紀から18世紀中盤までのバロック期はいわば主戦場。オルリンスキの喉のテクニックと透明感に満ちた声音が存分に楽しめるだろう。
「後半ではポーランド語の歌曲をお聴き頂きます。母国では有名な早逝の作曲家カルウォーヴィチの歌曲のほか、シェイクスピアの詩をポーランド語訳で作曲したバイルトの《4つの愛のソネット》にもご注目下さい! 20世紀の作品ですがネオ・クラシック(『昔に戻ってみよう』というコンセプト)なので、それは聴きやすいんです!」
確かに。バイルトの歌曲集は、インタヴュアーも密かに推す名曲揃い。幻想的でも爽やかなメロディをぜひ多くの人に知って頂きたいものである。ところで、最近のオルリンスキといえば、パリ・オリンピックの開会式で披露した「歌とダンスが合体するシーン」でも注目の的。オペラ歌手として超一級の人なのに、彼のもうひとつの顔は「ポーランドの国内大会で優勝したブレイクダンスの名手」なのだから。
「子供の頃から合唱団に入り、ダンスも同じ頃から始めて今にいたるんですよ。どっちも大好きで、もはや人生から切り離せません。オリンピックの時は、自分の出番以外は何の情報も知らされず、発声練習をしていたら大画面にレディ・ガガが映って目を丸くしました(笑)。コンサートでは基本、曲調を守ってじっと立って歌うんですが、皆さんがアンコールを求めて下さったなら、何かが起きるかも(笑)。ぜひお楽しみに!」
取材・文:岸純信(オペラ研究家)
トップ写真:(C)Jiyang Chen
■チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2563340
(C)Michael Sharkey

