3月1日(日)、池袋の東京芸術劇場で「ボンクリ・フェス」が開催される。2017年にスタートして今回で8回目。「ボンクリ」は「ボーン・クリエイティヴ(Born Creative)」の略で、「人間はみんな生まれつきクリエイティヴ」という意味だ。
作曲家・藤倉大がアーティスティック・ディレクターを務めるこのワンデー・フェスティヴァルで紹介されるのは、今を生きる音楽家たちが作った新しい音楽。ひと昔前なら「現代音楽祭」と呼ばれていたかもしれないが、「ボンクリ」はちょっとイメージが違う。子供から大人まで、“生まれつきのクリエイティヴ”な感覚で音楽と遊ぶ。そんなフェスティヴァルだ。藤倉に聞いた。
「生まれたときは誰でもクリエイティヴ。その感覚を思い出してほしいですね。福島で子供たちの作曲教室を10年ぐらいやっていて気づいたことがあって、小学校の低学年くらいまでは、みんなクリエイティヴの天才なんですね。変な音や変な音楽を、楽しんでどんどん作れる。それが高学年になると、ぱたっとできなくなってしまうんです。
でも、僕もですけど、子供の頃のままの感覚で一生クリエイティヴなことを続けている音楽家もいる。そんな人たちが世界中から集まって、『これって、どういうジャンルの音楽?』みたいな新しい音楽、新しい音作りのあり方を紹介するのがボンクリです。そんな音楽だけを一日中聴ける音楽祭って、世界のどこにもないんじゃないでしょうか」
今回は東京芸術劇場の地下1階と地下2階のすべてのスペースを使った《部屋》で、さまざまなコンサートやワークショップを展開。コンサートは国内外5か国のアーティストにスポットを当てる。
《ポーランドの部屋》は弦楽四重奏に電子音楽と映像を組み合わせたネオ・カルテットが出演。
「ポーランドでシンセサイザー・フェスティヴァルもやっているエレクトリック・カルテット。そこに僕が呼ばれて共演したのがきっかけです」
《ノルウェーの部屋》は、ボンクリではおなじみのヤン・バングと仲間たちのエレクトロ・セッション。
「日本でもすごく有名な、即興ジャズのトランペッター、ニルス・ペッター・モルヴェルも何年かぶりに出演。僕や大友良英さんも一緒に演奏します」
《スロバキアの部屋》は現代音楽アンサンブル、クエーサーズ・アンサンブルの公演。
「スロバキアは共産主義時代から前衛音楽や実験音楽が盛んで、国外ではあまり知られていない作品も多いので、そこをぜひ。リーダーのイヴァン・ブッファと僕が初めて会ったのは東京芸術劇場だったんです。彼が初来日したとき、たまたま聴きに来たコンサートが、芸劇ウインド・オーケストラ・アカデミーの、僕のチューバ協奏曲の初演だったんだそうです。だからぜひ芸劇に行きたいと言ってくれて」
《フルートの部屋》と《子どものためのフルートの部屋》には第1回から参加しているフルート奏者クレア・チェイスが出演。
「クレア・チェイスは最近、テリー・ライリーさんととても深くコラボレーションをしています。ライリーさんが昨年90歳だったので、クレアに、何かやってくれないかとお願いしました」 そしてボンクリのレギュラー・メンバーともいうべきアンサンブル・ノマドによる《ノマドの部屋》。
「ノマドの佐藤紀雄さんと僕は毎週のように話して、こんな面白い作曲家がいたよと紹介してくれたり。9年間、しょっちゅうやりとりして、ボンクリ・チームと一緒に作ってきました」
「今までなかったフェスティヴァルを作ろう!」と気負ってスタートしたわけではなかった。
「たまたまそんなことになっちゃった(笑)。とりあえずいろんな音楽家に話してみたら、『やりたい!』『新作書いてもいい?』という人たちがたくさんいて。『ありがとうございます』『もちろんお願いします』と言っていたら、こうなったという感じですね。
だからここには何のしばりもありません。どんな音楽のやり方も“あり”。出演する人たちが、自分たちのやりたいことをやってくれる。料理人が自分の得意料理を作ってくれたら、やっぱり食べたいじゃないですか。それと同じですね。
じっさい僕も毎回、『あ、こういう音楽もありなのか!』なんて思いながら聴いたりしています。ちょっとわからなかったかなっていうこともあるんですよ。それでいいんです。そっちのほうが面白い。ボンクリに来れば、その年はもう、ほかのコンサートに行かなくてもいいくらい面白いと思いますよ」
新しいもの好きの大人の音楽ファンが楽しいのはもちろんだけれど、ボンクリの重要な“主役”が子供たちだ。彼らのクリエイティヴィティを、私たちが大人の価値観の枠に押し込めてしまわないようにしたいもの。子供たちが自由に音楽と接することができるように、親世代はどんなふうに関わればよいだろう。
「僕が親として思うには、ファミリア(familiar)じゃないもの、慣れ親しんだものではないものを率先して体験できる場所に連れていくことじゃないでしょうか。もちろん子供が『好き』というものもいいんですが、それって、すでに体験したことがあるものじゃないですか。でも、まだ体験したことがないことを体験したら、人生が大転換する可能性があると思うんですよ。教育のために連れていくなんていうことは考えなくていい。親も子供もいっぱい新しい体験ができる場所があったら、率先して行くといいんじゃないかなと思います」
とにかく新しいものに触れる機会を作ってあげること。ボンクリはまさにそういう場所だ。ひとつのコンサートがおよそ45分と、けっして長すぎないサイズなのもいい。
「しかも1曲ごとにまったく違う曲が演奏されるんです。同じようなものが二つとない。だから、この曲は嫌だ、でも次のこの曲は好き、と自由に感じてもらえると思います。
実は僕はクラシックの古典名曲を聴くのが苦手で、あれって、『この名作を聴いて感動できないなら、それはあなたが悪い』という圧力を感じるんですよ。君はわかってないな、みたいな。でもボンクリは、まさにいま世界のどこかで作られている音楽を持ってきているので、聴き方なんか決まってない。自由でいいんです。隣の人は感動したと言ってるけど自分はちょっと違ったという曲もあるだろうし、次の曲はその逆かもしれない。
あと、無料のコンサートがたくさんあるし、出入り自由な企画もありますから、ちょっとでも嫌なら出ちゃってもいい。ほんとうに自由にしていただいていいんです」
そんな自由さで9年間走り続けてきたボンクリだが、残念ながら今回でいったん終了となる。
「最初から、じゃあ来年もやりますか、と1回ずつ作ってきたので、それが今回でいったん終わりということ。でもこれから先も、どこか他でボンクリ・フェスをやりたいというところがあれば、やればいいと思いますし、それを僕ありでやっても、なしでやっても全然構わない。僕がやっていたのは、言ってみれば友達パワーで個人的に誰かを呼んでくるということだけだったので、もしまた僕の友達パワーが必要なら、お手伝いすることもあるかもしれません。
僕は作曲家だから、舞台上じゃなくて舞台裏の人間。だから舞台裏の人たちがとにかく好きなんです。昨日もボンクリと関係なく、東京芸術劇場のテクニカル・チームの人と食事に行ったりしてますから。ボンクリの9年間でいろんな人に会えたし、知らないことをたくさん知ってとても勉強になりました。すごく楽しかったですね」
ひと区切りを迎える今年のボンクリ。家族揃って、なんならおじいちゃん・おばあちゃんも一緒に親子3代で、“いま”生まれている音楽を、気楽に、自由に楽しみに出かけてみてはどうだろう。
取材・文:宮本明
ボンクリ・フェス2026
“Born Creative” Festival 2026

■チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2546112
3月1日 (日) 東京芸術劇場

