10月5日(日)~26日(日)にわたり東京文化会館で開催される、ウィーン国立歌劇場日本公演。
開幕に先立って行われた記者会見のレポートをお届けします。
高橋典夫(公益財団法人日本舞台芸術振興会)
日本公演は実に9年ぶり。2021年に予定していた公演がコロナ禍で延期になり、ようやく実現させることができました。今回はウィーンを象徴する2演目を上演します。これまで10回の日本公演を数えますが、『フィガロの結婚』は過去に5回上演しています。日本の観客にそれだけ愛されていることの現れだと思います。『ばらの騎士』は1994年にカルロス・クライバーの指揮による伝説的な名演がありました。ウィーンといえば『ばらの騎士』、というイメージをお持ちのお客様も多く、まさに最強のプログラムではないかと思います。そして今回は東京文化会館改修前最後の大型引っ越し公演。文化の衰退を危惧しています。円安、物価高(ホテル代、航空券代はひところの2~3倍)など、様々な問題でチケット代をあげざるを得なかったのですが、どうにか実現させることができました。特に劇場問題についてはぜひ今日お集まりのジャーナリストの皆様の力で訴えていってほしいと願っています。
ボグダン・ロシチッチ総裁
ボグダン・ロシチッチ(ウィーン国立歌劇場総裁)
1980年から10回目の日本公演を迎えます。オペラという何世紀にもわたる芸術において、このことは大変意義深いことです。コロナ禍で9年ぶりの来日となりましたが、今回伺えてとても嬉しく思っています。
シラーは「劇場の素晴らしさはそれを同時に多くの人が分かち合えること」という言葉を残しています。聴衆が経験することが何百倍にもなって私たちにかえってくるのです。
モーツァルトの『フィガロの結婚』はウィーンの宮廷で生まれたオペラですが、それが20世紀の、ウィーン国立歌劇場を代表する演目になっています。こうして離れた地、日本で親しみ深く聴いていただけることはとても力強く感動的な出来事ではないでしょうか。観客にもそうであってほしいと願っています。
今回は2演目もってきました。いずれも劇場を代表する演目です。
バリー・コスキー演出の『フィガロの結婚』、コスキーは欧州で大人気の演出家で、ダ・ポンテ三部作すべてをウィーンで演出しています。
『ばらの騎士』はオットー・シェンク演出の舞台、シェンクは劇場に大きな足跡を残した人物です。この2人は違う演出家ですが共通項があります。劇場に対する深い愛情です。二人とも鋭い視線をもっており、人間の魂、すべてのものへの洞察力を感じます。
それらはとても近しい存在と感じます。そして保守的ではなく、良い劇場作品か、悪しき劇場作品か、あるのはそれだけです。
日本にウィーン国立歌劇場が大事にしてきた2演目をおみせしますが、新しいものと伝統、2つのバランスを絶妙に保つことが劇場がすべきことではないでしょうか。私どもの劇場の歴史は長く、おしつぶされそうなほど大きいと感じることもあります。新しいものにも目を向け、あらゆる聴衆にオープン、新たな世代に扉をひらく劇場でありたいと思っています。
実はその第一歩としてノイエ・シュターツオーパー、「新しい国立歌劇場」をつくりました。小さなブラックボックスのような劇場ですが、音響がとても素晴らしく、子ども向け、ファミリー向けなど様々なことができます。新しい聴衆を伝統に取り込みながら、その伝統を東京で披露できることを嬉しく思います。
ベルトラン・ド・ビリー(指揮者)
ベルトラン・ド・ビリー(指揮者)
『フィガロの結婚』を3分で語れと言われても無理なのですが(笑)。
ボーマルシェの原作は大変スキャンダラスなものではありましたが、モーツァルトはこの戯曲をウィーンにもっていきたかったのです。ただ、そのままでは上演ができず政治的な部分はカットせざるをえませんでした。しかしそれは全て音楽に含まれています。
このオペラは表層だけではなく、下に深いものがこめられています。
一部の独裁者への批判、現代への皮肉が込められていると感じます。
ハンナ=エリザベット・ミュラー(アルマヴィーヴァ伯爵夫人)
ハンナ=エリザベット・ミュラー(アルマヴィーヴァ伯爵夫人)
モーツァルトはこの役に最も美しい音楽を与えました。伯爵夫人は多様性をもった性格で高貴さとエレガンスにあふれ、自らの感情にも正直です。コスキーの演出では演技と音楽のタイミングがまさに完璧なのですが、私たち歌手にとってはこれらすべてをこなすのは大きなチャレンジでもあります。
カタリナ・コンラディ(スザンナ役)
カタリナ・コンラディ(スザンナ役)
今回幸運にも『フィガロの結婚』にも出演できることになりました。スザンナは300年前の人物とは思えないほど現代的で、ステージ上全ての登場人物に影響を与えてしまいます。この演出は2年前にも出演しましたが最高の演出です。ウィーン国立歌劇場というすべてがハイレベルな環境で歌えることも非常に楽しみです。
リッカルド・ファッシ(フィガロ役)
リッカルド・ファッシ(フィガロ役)
フィガロは大好きな役です。初めは嬉しかったのが落ち込み、最後にはスザンナとの喜びが待っています。まるでジェットコースターのような感情の起伏を味わうことができます。歌手として本当にやりがいのある役です。
パトリツィア・ノルツ(ケルビーノ役)
パトリツィア・ノルツ(ケルビーノ役)
ケルビーノは常にカオスをもたらします。コスキーはとてもクレイジーな人で(笑)歌手にとってはとても大変ですが、この作品の持つ楽しさから悲劇性まで表面的ではない深層の部分まで引き出してくれます。そしてオーストリア生まれの私にとって、ウィーン国立歌劇場はまさにホームなのです!
photo Yuji Namba
■チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2558433