2026年に創立70周年を迎える日本フィルハーモニー交響楽団が、記念シーズンの公演ラインナップを発表。首席指揮者カーチュン・ウォンらが会見に臨んだ。
「1956年6月22日に生まれた日本フィルは“かに座”です。家族思いの“かに座”らしい精神で、皆さんに素晴らしい音楽を届けたいと思います。日本フィルと縁の深い“家族”のような指揮者たちが再び共演してくれる特別なシーズンになりました。ネーメ・ヤルヴィ(客員首席指揮)、ピエタリ・インキネン(前首席指揮者)、小林研一郎(桂冠名誉指揮者)、アレクサンドル・ラザレフ(桂冠指揮者兼芸術顧問)といったマエストロたちです」(カーチュン・ウォン=以下同)
まず注目されるのが70周年特別演奏会。創立記念日を含む2公演、マーラーの交響曲第8番《千人の交響曲》が鳴り響く。指揮はもちろん首席指揮者カーチュン・ウォンだ。 「就任以来、マーラーに取り組んできました。いよいよ交響曲第8番です。偉大なストーリーを持つ素晴らしい作品ですが、非常に多くの出演者が必要で、演奏の機会は限られています。節目の年にプログラミングしてくれたことに感謝しています」
合唱には東京音楽大学、日本フィルハーモニー協会合唱団、武蔵野合唱団、杉並児童合唱団が参加。ここでも、70年の歴史の中で絆を結んできた“家族”が一堂に会し、アニバーサリーを祝う。
カーチュン・ウォンはこの特別演奏会を含め、全7プログラムを指揮する。
「私の指揮する《第九》に注目してください。日本で振る初めての《第九》を、マーラー編曲版でスタートします。倍管編成などが特徴ですが、けっしてマーラーチックではなく、ベートーヴェンの精神を大切にしたオールド・ファッションな編曲、王道のベートーヴェンの響きです」[2026年4月・東京定期]
自身の編曲による《展覧会の絵》を披露するのも興味深い。
「ラヴェル版でもヘンリー・ウッド版でもなく、他の作曲家による編曲とも違う、特別なバージョンです。中国楽器のソロ群と西洋オーケストラが融合する、合奏協奏曲、協奏交響曲のようなスタイル。異なる文化の融合です」[2026年10月・名曲コンサート]
名匠と新星を起用したソリストとの共演も魅力的だ。
「今年5月にブラームスのピアノ協奏曲第1番を弾いてくれたスティーヴン・ハフが帰ってきます。今度はベートーヴェンの《皇帝》です」[2026年11月・横浜定期&名曲コンサート]
「トランペットの児玉隼人さんは、コンサート時点でまだ17歳(2009年生まれ)。数ヶ月前にテレビで彼を見て、すぐに事務局に電話しました。『彼を知ってる?彼と演奏したい!』。私もトランペットを吹いていましたが、私の100倍は巧いです(笑)。曲目はハイドンのトランペット協奏曲。他の楽器で言えばチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲やラフマニノフのピアノ協奏曲に相当する、スタンダードな協奏曲です」[2027年1月・横浜定期&芸劇シリーズ]
さらに、大曲のブルックナーの交響曲第8番も控えている。
「マーラーの8番、そしてブルックナーの8番。“八”は私にとって特別な数字です。私の母語マンダリン(中国語の標準語)では。“八”は“パー”と発音し、“上がる”を意味する“ 発/(ファー)”と同じ音です。運のいい数字なのです」[2027年1月・東京定期]
このほか、2027年3月の横浜定期で、ソロ・コンサートマスター田野倉雅秋が独奏を務めるハチャトゥリアンのヴァイオリン協奏曲やレスピーギ《ローマの松》を指揮して70周年シーズンを締めくくる。
カーチュン・ウォン以外の公演の聴きどころも。
2026年5月東京定期にはアレクサンダー・リープライヒが3年連続で出演。2024年の《魁響の譜》に続いての三善晃作品となるチェロ協奏曲第2番《谺つり星》を振る(独奏=佐藤晴真)。
6月東京定期も聴き逃せない。独奏者・服部百音たっての希望によるファジル・サイのヴァイオリン協奏曲《ハーレムの千一夜》(2007)を、広上淳一の指揮で。 7月東京定期には、89歳を迎えるネーメ・ヤルヴィが20年ぶりに登場。フルトヴェングラーの大作、交響曲第2番(1945)を取り上げる。昨年ライヴ録音も行っている、ヤルヴィの“推し曲”。
アレクサンドル・ラザレフも、2021年以来、久しぶりに戻ってくる。9月の横浜定期でラフマニノフ、10月の東京定期でショスタコーヴィチを振る。
2022年まで10年間正指揮者を務めた山田和樹も10月の東京定期に登場。メインはチャイコフスキーの《悲愴》だが、「日本フィル・シリーズ」から生まれた間宮芳生《二重合奏協奏曲》(1966)、ヴィルデ・フラングを迎えてのバルトークのヴァイオリン協奏曲第2番にも注目だ。
詳細は日本フィルの公式ホームページで。
70周年シーズンから、新しい合言葉として「共鳴を、熱いウェーブに」を掲げ、その思いを込めた新ロゴも発表された。Japan Philharmonic Orchestraの頭文字「JPO」を楽譜の五線の重なりでデザインした意匠で、画面上ではアニメーションで動く。
なお、従来は9月スタートだったシーズン区切りを、今後は4月スタートに改める。そのため現在進行中の2025/26シーズンは、2025年9月~2026年3月の変則日程となっている。
取材・文:宮本明
写真:©山口敦
■チケット情報
https://t.pia.jp/pia/artist/artists.do?artistsCd=11011613