カーチュン・ウォンインタビュー 日本フィルハーモニー交響楽団 第770回東京定期演奏会
2025.04.04
- よみもの

全国のクラシック音楽ファンから注目を集める日本フィルハーモニー交響楽団と首席指揮者カーチュン・ウォンのコンビが、いま精力的に取り組んでいるテーマのひとつが「アジア」である。シンガポール生まれのウォンは、アジアの作曲家の作品や、欧米の作曲家がアジアに触発されて書き上げた作品を取り上げることで、「西洋と東洋の出会い」がもたらすインパクトに光を当てている。
芥川也寸志の《エローラ交響曲》とブリテンのバレエ音楽《パゴダの王子》組曲のほか、イギリスの名手、サー・スティーヴン・ハフをソリストに迎えてブラームスのピアノ協奏曲第1番が演奏される第770回東京定期演奏会も、ウォンのそうした試みを象徴するプログラムだ。
「今回取り上げるのは、いずれも異文化に触発されて作曲された作品です。今年、生誕100年を迎えた芥川也寸志の《エローラ交響曲》は、彼がインドで得たインスピレーションにもとづいて書かれました。ブリテン唯一のバレエ音楽《パゴダの王子》も、バリのガムランから影響を受けていますし、私が尊敬するピアニスト、スティーヴン・ハフさんがソリストを務めるブラームスのピアノ協奏曲第1番には、ハンガリーの民俗音楽の要素を見出すことができるでしょう」(カーチュン・ウォン、以下同)
実演に接する機会の少ない《エローラ交響曲》と《パゴダの王子》だが、その聴きどころをウォンは次のように語る。
「一切の無駄を削ぎ落とした原始的な響きを特徴とする《エローラ交響曲》は、カオスでありながら整っていくような、あるいは右脳的でありながら左脳的でもある、多面的な音楽です。《パゴダの王子》において、ブリテンは西洋の楽器を用いてガムランの響きを再現していますが、そこには彼のバリの文化に対するリスペクトを感じます。この作品にはチャイコフスキーやストラヴィンスキーのバレエ音楽を思わせる美しい時間も多く含まれていて、組曲版でもブリテンが大切にした要素を楽しんでいただけるでしょう」
ウォンとハフの初共演にも大いに期待が高まっている。
「ハフさんはピアニストであると同時に、作曲家や詩人でもあります。芸術家としてさまざまな顔を持つハフさんとの初共演が、今からとても楽しみです。ブラームスのピアノ協奏曲第1番は、若きブラームスが“協奏曲とはなにか”という問いに挑んだ初期の代表作です。ピアノ独奏はもちろんのこと、オーケストラにとっても大変な難曲ですので、日本フィルの演奏にもぜひ注目してください」
ウォンとともに飛躍を遂げる日本フィルの精緻なアンサンブルと多彩なサウンドに接するのに、これほどふさわしいプログラムはないだろう。勢いに乗る名コンビを未体験の方は、ぜひサントリーホールへ足を運んで欲しい。
文・八木宏之
トップ画像:カーチュン・ウォン ©Ayane Sato
サー・スティーヴン・ハフ ©Sim Canetty-Clarke
■チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2442544
2025年5月9日 (金) 19:00開演
2025年5月10日(土) 14:00開演
サントリーホール
■出演
指揮:カーチュン・ウォン[首席指揮者]
ピアノ:サー・スティーヴン・ハフ
■曲目
芥川也寸志:エローラ交響曲
ブリテン:バレエ音楽《パゴダの王子》組曲
ブラームス:ピアノ協奏曲第1番 ニ短調 op.15