【坂入健司郎コラム】今年のベスト・コンサート!

2024.12.26

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 こんにちは!指揮者の坂入健司郎です。2024年も残りわずか。街のイルミネーションやにぎやかな音楽が、クリスマスの終わりとともに落ち着いてくると、いよいよ年の瀬が押し迫ってきたことを感じます。今年も振り返れば、新しいアーティストの登場や待ちに待った来日公演など、クラシック音楽シーンには多彩な話題があふれていました。読者の皆さまにとっては、どのような一年だったでしょうか。

私自身も(自分の演奏会の合間を縫って…)いくつもの公演をめぐり、そのたびに胸を震わせる瞬間を数多く体験することができました。こうして一年を通じて演奏に触れるたびに、改めて「生の音楽」の持つ力の大きさを実感します。ということで、今日は一年を締めくくる恒例行事となってまいりました!私が最も印象に残ったベストコンサートを3つ、順不同で発表していこうと思います。それではまいります!


●第53回サントリー音楽賞受賞記念コンサート 濱田芳通(指揮・リコーダー) 
 ヘンデル:オペラ『リナルド』@2024年8月17日(土) サントリーホール

指揮・リコーダー:濱田芳通
リナルド:彌勒忠史(カウンターテナー)
アルミレーナ:中川詩歩(ソプラノ)
ゴッフレード:中嶋俊晴(カウンターテナー)
アルミーダ: 中山美紀(ソプラノ)
エウスタツィオ:新田壮人(カウンターテナー)
アルガンテ:黒田祐貴(バリトン)
魔法使い/ドンナ:眞弓創一(カウンターテナー)
伝令/セイレーン1:中嶋克彦(テノール)
セイレーン2:山際きみ佳(メゾ・ソプラノ)
舞踊:西川一右
管弦楽:アントネッロ
演出:中村敬一

濱田芳通さんのサントリー音楽賞受賞記念演奏会、ヘンデル『リナルド』を聴きました。天皇陛下ご臨席の公演。最高に楽しい公演!
サントリーホールで聴くからか、濱田さんとアントネッロによる血湧き肉躍るビート感に加えて、弦楽のふわりとした儚げな響きもたまらなく感動に包まれました。彌勒忠史さんや中山美紀さん、黒田祐貴さんの絶唱にも痺れました。


●トゥガン・ソヒエフ指揮 ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団
 @2024年11月7日(木) サントリーホール

チャイコフスキー:オペラ「エフゲニー・オネーギン」から ポロネーズ
ラフマニノフ:パガニーニの主題による狂詩曲 op.43
(ピアノ:小林愛実)
リムスキー=コルサコフ:交響組曲「シェエラザード」op.35
(コンサートマスター:青木尚佳)

トゥガン・ソヒエフ指揮、ミュンヘン・フィルの来日公演。小林愛実さんの見事なラフマニノフ。そして、なんといってもミュンヘン・フィルのコンサートマスターを務める青木尚佳さんがソロを務める「シェエラザード」の美しさたるや!フレーズの長さ、音ひとつひとつの重量のグラデーション、さすがのソヒエフです…!そしてフィルハーモニーを名乗ることを認識しているかのようなハーモニー感の豊かさ。鳥肌…!


●サー・サイモン・ラトル指揮 バイエルン放送交響楽団
 @2024年11月28日(木) NHKホール (NHK音楽祭2024)
 @2024年11月29日(金) 愛知県芸術劇場 コンサートホール

バードウィッスル:「サイモンへの贈り物 2018」
マーラー:交響曲第7番「夜の歌」

サー・サイモン・ラトル指揮 バイエルン放送交響楽団の来日公演。ラトルがブレグジット(Brexit)の影響で志半ばでロンドンを去ることになったときは、「世界最高のコンビ」の喪失感にがっかりしたものですが、新しきパートナーであるバイエルン放送交響楽団との充実たるマーラーを聴いて、新たな「世界最高のコンビ」に触れることができた至高のひとときでした!


<番外編>
今年は、久々にヨーロッパでも演奏会にたくさん足を運ぶことができたので、海外編ベストコンサートも3つ、順不同で発表していこうと思います!

●ラファエル・ピション指揮&ピグマリオン
モンテヴェルディ 聖母マリアの夕べの祈り(2024年9月18日@フィルハーモニー・ド・パリ)

何千回と演奏会に通っていても、人生が変わるような演奏に出くわすときがあります。この演奏会はまさにそれ。とてつもない時間でした。
念願だったピション&ピグマリオンの実演。彼らの十八番中の十八番であるモンテヴェルディの聖母マリアの夕べの祈り。アンティフォナ(交唱)を極めたパフォーマンスで、360度客席のあるフィルハーモニー・ド・パリの隅から隅まで合唱、独唱、オーケストラを配置させます。息切れしないか心配になるほど、各曲ごとに演者を移動をさせて、縦横無尽、自由自在にアンティフォナを実現させてゆきます。ヴァイオリン二丁のソロですら、一人は背中を向けて弾くこだわりぶり。そして、照明にもこだわります。各奏者が移動して曲が変わると夕方の音楽から夜の音楽へ、照明も変化させる。それがまた、まったくいやらしくない。するとどうでしょう、2,000人前後の規模のホールがケルン大聖堂より大きな空間にもなり、奏者とお客さまとの一対一の個人的な対話にもなるのです。まあ、やられました。
ピションとピグマリオンのモンテヴェルディは、マーラーの千人の交響曲、マタイ受難曲、ワーグナーの指環を体験するような音楽史の中でも類い稀なる音楽体験のひとつでした。これ以上、言い表す言葉が見つかりません。


●ラトル指揮、BR響 マーラー:交響曲第6番、他(2024年9月3日@ベルリン)

いくら強調してもオーケストラの調和の中にあり音色豊かなオーケストラ演奏の極致と、巨大な作品を刹那に感じさせるかと思いきや、刹那な時間を永遠に感じさせることもできる時間芸術の極致を共存させた凄まじい演奏。放心状態になり、ホテルへの帰り道がよく覚えてないほどでした。様々な究極をみせてくれた生涯忘れられない演奏会になりました。


●D.R.デイヴィス指揮、MDR響 ブルックナー:交響曲第8番 第1稿 (2024年9月4日@ライプツィヒ)

ブルックナーの200歳を祝う誕生日に聴いた、生涯忘れられないブルックナー演奏。終演後、オール・スタンディング・オベーションとなる盛り上がりでしたが、あまりに壮絶な演奏に、私はしばらく立ち上がれませんでした…
マエストロ・デイヴィスの指揮も実にエネルギッシュ。録音に残されているリンツでの演奏と比しても、推進力に溢れた手に汗握る展開を生み出します。ブルックナーの交響曲第8番の第1稿は、奇しくも自身の誕生日である9月4日に完成したそうです。相当の自信と愛情があったのでしょう。その自信と愛情が溢れんばかり表出した演奏会でした。


●来年の出演は1月4日から!

来年の私の指揮活動は、1月4日から東京ユヴェントス・フィルハーモニーとともにミューザ川崎シンフォニーホールでスタートします。新年早々ニューイヤー・コンサートらしからぬ、バルトーク「中国の不思議な役人」とストラヴィンスキーの「春の祭典」という、20世紀における問題作を集結させたチャレンジングなプログラムをお届けします!
また、中盤に取り上げるバーバーのヴァイオリン協奏曲では、ボストン交響楽団と共演を果たした若尾圭良さんが独奏を務め、御尊父であるボストン交響楽団のオーボエ奏者・若尾圭介さんも友情出演してくださる豪華な共演もあります。
ワルツ、ポルカなどで彩るニューイヤー・コンサートも一興ですが、案外ヨーロッパでは大規模な演奏会で聴き初めという機会も多いもの。ぜひ日本でも、鮮烈な聴き初めを体感しにミューザ川崎シンフォニーホールへお越しください!
https://t.pia.jp/pia/ticketInformation.do?eventCd=2434348&rlsCd=001


今日は、「今年の極私的ベストコンサート6選!」をご紹介しました。
今年も1年大変お世話になりました。来年も皆様にとって素敵な一年になりますよう願っております。
クラシック音楽についての素朴な疑問や気になることは、日々、皆様からのご質問を受け付けております。
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坂入健司郎Twitter:https://twitter.com/siegfried512

 

 
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