英国ロイヤル・オペラ2024年日本公演 マントヴァ公爵役のハヴィエル・カマレナに聞く

2024.06.17

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ハヴィエル・カマレナ

英国ロイヤル・オペラ2024年日本公演の『リゴレット』でマントヴァ公爵を演じるハヴィエル・カマレナ。すでに世界中でその輝かしい声を聴かせているカマレナの活躍ぶりを、上演中のアンコールが原則禁止のメトロポリタン歌劇場(MET)で、パヴァロッティ、フローレスについでアンコールに応えた3人目の歌手となったと報じられたことで知るファンも多いことでしょう。来日を前に行ったメール・インタビューで、「マントヴァ公爵はオペラの最初から最後まで卑劣」というカマレナ。聴かせどころのアリアについての解釈など、答えてくれました。


「ヴェルディは聴衆を興奮させ、権力に酔いしれた男の恐ろしく卑劣な性格を完璧に覆い隠す方法を知っていたのです」


――メトロポリタン歌劇場(MET)での驚異的な活躍ぶりが知られているので、コロナ禍の2021年、フィレンツェでのマントヴァ公爵役がイタリア・デビューというのは意外でした。イタリア・デビューがマントヴァ公爵だったことについて、特別な印象はありましたか?


カマレナ:正直に言うと、イタリア・デビューが別の状況で実現していたら、もっと喜びは大きかったかもしれないと思いますが、とにかくエキサイティングな経験だったことはたしかです。ただ、公演が一般には非公開で、放送とビデオ録画のみだったので、当惑したということもありました。


――英国ロイヤル・オペラの、オリヴァー・ミアーズ演出の『リゴレット』では、マントヴァ公爵が“美術品や女性をコレクションする”ということが大きな意味を持っているようです。マントヴァ公爵の役作りについて、どう考えていますか?


カマレナ:私の公爵のビジョンとオリヴァーのビジョンを対峙させるのは非常に興味深いですね。そして、それぞれが考えるマントヴァ公爵という“ひとつの色”を組み合わせて、より興味深いキャラクターを作ることができればと願っています。


――一般的には非道な男とされるマントヴァ公爵ですが、ジルダがさらわれ、それが自分の元に連れて来られたと知る前だけは、本当にジルダのことを心配するアリア〈あの女が誘拐された~ほおの涙が〉(Parmi veder le lagrime)を歌います。このシーンについて、どのように解釈していますか?


カマレナ:公爵はオペラの最初から最後まで卑劣です。この役を歌う多くの歌手たちが、マントヴァ公爵がこのアリアを歌うことで、彼のキャラクターを再認識させようとしているのは知っていますが、歌詞に注意してみると、公爵はこの歌を自分自身に向けて歌っているといえます。
まずは「“Ella mi fu rapita”、直訳すると “彼女は私から誘拐された”。そんなことはあり得ません。彼女を誘拐するのは彼なのです。そしてアリアの間、彼がジルダを想う唯一の瞬間は、彼にそばにいて救ってほしいとジルダが泣いている姿を身勝手に想像する時だけなのです! アリアの残りの部分は、彼が英雄であるという別の現実を構築するためのもの。「私、私、そして私自身」のアリアなのです。


――また、マントヴァ公爵らしさを示すオペラのなかの聴かせどころである〈あれかこれか〉(Questa o quella)や〈女心の歌〉(La donna è mobile)ではどのような表現を考えて歌われるのでしょう?


カマレナ:ヴェルディは、『リゴレット』の原作となった戯曲《王はお愉しみ》を書いたヴィクトル・ユーゴーと同様に容赦ない非難を浴びましたが、作曲家は、前述にあるような素晴らしい音楽ですべての人の耳を喜ばせる方法をよく知っていました。〈あれかこれか〉や〈女心の歌〉も、聴衆を興奮させ、権力に酔いしれた男の恐ろしく卑劣な性格を完璧に覆い隠す方法であると知っていたのです。


――『リゴレット』では、『ラ・チェネレントラ』や『連隊の娘』に比べると歌う場面が少なく、物足りないと感じられたりしますか? それとも、歌う場面が少ないだけに難しいと感じますか?


カマレナ:歌う場面が少ないとはいえません。『ラ・チェネレントラ』でラミーロはアリアを1曲しか歌わないですし、『連隊の娘』のトニオは2曲ですが、マントヴァ公爵は 3つのアリアと、ジルダとのデュオと、非常に有名なそして非常に難しいカルテットで要求の厳しいアンサンブルを歌います。つまり、歌う量は関係なく、難易度を考えることにつながるのは、まさに“何を歌うか”だと思います。例えるなら、100メートル走とマラソン。 どちらも距離に関係なく困難です。


――METでアンコールに応えた史上3人目の歌手であることはすでによく知られていますが、英国ロイヤル・オペラでも『連隊の娘』では“ロイヤル・オペラハウスで歴史を作る”と評されるなど、あなたが登場するところではいつもセンセーションが巻き起こります。この現象をあなた自身はどう感じていますか?


カマレナ:ありがとう。常にそれが大きな責任を意味すると考えてきました。 このような評価を得られたことは素晴らしいことで、心から感謝しています。だからこそ、私は常に期待に応え、私を評価してくれる人々を幸せにし続けたいと思っています。


ハヴィエル・カマレナ
英国ロイヤル・オペラ『連隊の娘』でトニオを歌うカマレナ(2019年公演より)
Photo: Tristram Kenton / ROH


――英国ロイヤル・オペラで歌った際には、METやチューリッヒなど、出演を重ねている歌劇場と異なる特徴を感じましたか?


カマレナ:間違いなく文化的な影響はあると思います。 ロンドン、ニューヨーク、スペイン、メキシコ、チューリッヒの人々の間には違いがあります。 しかし、決して変わらないものがあります。それはオペラへの愛と評価。この美しい芸術が世界中の多くの人々を興奮させ、彼らに何かしらの変化をもたらす力強さを目の当たりにするのは、とても興味深いことです。


――オペラ、コンサート、録音とお忙しい様子ですが、スケジュールはどのように管理していますか? 出演するオペラの数や休暇など、ご自身で決められているルールあるいは秘訣はありますか?


カマレナ:私は日程を非常に注意深く管理しています。その秘訣やルールを考える必要があるとすれば、それは何よりも自分の休養する時間を尊重することです。オペラで歌うことは、激しい身体活動であることに加えて、非常に強く感情への負荷をもたらします。 ですから、仕事から完全に切り離され、家で家族と時間を過ごすことは私にとって非常に重要なのです。 この平和な安息の地で私の心に新たなエネルギーが与えられることによって、私は歌い続け、愛する聴衆の皆さまに喜んで身を捧げ続けることができるのです。


ハヴィエル・カマレナ
Photo: ROH


カマレナが歌うマントヴァ公爵の「女心の歌」は下記よりお聴きいただけます。

バルセロナのリセウ劇場でのコンサート(2021年9月)



英国ロイヤル・オペラ

■チケット情報:https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2347889

ジュゼッぺ・ヴェルディ
「リゴレット」

指揮:アントニオ・パッパーノ
演出:オリヴァー・ミアーズ

〈神奈川公演〉
6月22日(土)15:00開演
6月25日(火)13:00開演 ※横浜平日マチネ特別料金
会場:神奈川県民ホール

〈東京公演〉
6月28日(金)18:30開演
6月30日(日)15:00開演
会場:NHK ホール

ジャコモ・プッチーニ
「トゥーランドット」

指揮:アントニオ・パッパーノ
演出:アンドレイ・セルバン

〈東京公演〉
6月23日(日)15:00開演
6月26日(水)18:30開演
6月29日(土)15:00開演
7月2日(火)15:00開演
会場:東京文化会館


トップ画像:ハヴィエル・カマレナ  Photo: Amanda Nikolic / Decca Classics

 
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