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ブラームス ヴァイオリン・ソナタ全曲リサイタル 西江辰郎インタビュー

2023.07.31

  • よみもの
西江チラシ

新日本フィルハーモニー交響楽団のコンサートマスターとして活躍している西江辰郎が、8月4日にHakuju Hallでピアニストの岡田将とともにブラームスのヴァイオリン・ソナタ全曲によるリサイタルをひらく。
 

●普段は新日本フィルのコンサートマスターとして活躍されている西江さんが、今回(東京では5年振りとききました)、リサイタルをひらこうと思われたきっかけは何ですか? 
そして今回は、ブラームスのヴァイオリン・ソナタ全3曲を演奏されます。その選曲の意図は何ですか? 


まず、この機会をいただいたこと、そして私の演奏するブラームスを聴きたいとおっしゃってくださった方がいたということがあります。そしてオーケストラ作品だけではなく、ソナタなど、ソロも自分で深く勉強できる機会も増やせたらと思い、今回の演奏会に取り組むことにしました。

私自身はいままで、自らが最も共感できる作品を中心に据えて構成を考える、という方法でプログラムを組んできました。ですから一つの公演すべてを一人の作曲家の作品でまとめる、あるいは特定の作曲家のソナタをひと時に全曲演奏するといったことには全く意味を見出せていなかったですが、最近ブラームスのソナタ3曲をストレートに直球勝負で演奏するのもいいのではないか、と思えてきました。
 
●まずは、ヴァイオリン・ソナタ第1番「雨の歌」の聴きどころや魅力を教えていただけますか?

第1番を世に出す前に、ブラームス自身はすでに3曲とも5曲ともいわれるピアノとヴァイオリンのためのソナタを書いていますが、本人の厳しい自己批判により破棄されたといわれています。
この第1番は冒頭から、ブラームスの気に入っていた最初の一(ひと)滴(しずく)すら、どう表現されるべきか、ヴァイオリニストにとっても、ピアニストにとっても、とても気を遣うのです。細部にわたって綿密に書かれているので、全曲を通じてある意味脆いというか、僅かでも虚栄や邪念が入ってしまうと何か失われてしまうものがあります。すっと心に語りかけるような動機や、寛大さ、懐の深さ、人の悼みに寄り添うような旋律、情熱的な人柄などをかんじさせるとても魅力的な作品ですね。
  
●ヴァイオリン・ソナタ第2番はいかがですか?
 
第2番は、この曲のみを演奏する場合と3曲のソナタと共にプログラムに組むのではアプローチの仕方を変える必要があるのかもしれないと私は思っています。
この曲が書かれたスイスのトゥーンのように雄大な風景が広がります。

●最後はヴァイオリン・ソナタ第3番です。

何れの3曲もピアノとヴァイオリンのためのソナタと題して作曲されていますが、ピアノとヴァイオリンの同等の協力関係という点においても、3番では更に充実してお互いが対等に扱われているように思います。
言葉では表現したくないような個人的な思いや事柄でさえ、音では語れるように、巧みにその情熱や思いといったものが込められていると感じます。
 
●ブラームスのヴァイオリン作品は難しいですか?

ブラームスはピアニストでもあったので、弦楽器奏者であったなら思いつかないような手法で、曲を書いていると思うのですが、そこには難しさに引き換え、その良さもあります。
ヴァイオリンがよりピアノに近く、ピアノがよりヴァイオリンに近く、表現をどう絡み合わせていくか。そしてお互いを束縛しないような形でどのように演奏するか。私にとっては大切なポイントなのですが、ブラームスはそういった音楽的にも技術的にも熟練が求められる作曲家ですね。それに譜面を深く読み込まないと、真意に沿わない表現になってしまいますし。
 
●オーケストラでのブラームスの演奏経験は、ソロでも活かされるものですか?
 
オーケストラというのは本当にたくさんの楽器がありますし、作曲家もオーケストラ作品やオペラを書く、となると書き方や意気込みも異なるのではないでしょうか?そうした作品群から学べる事は、オーケストレーションや、サウンドの個性、ほかの作曲家の作品や影響を受けた事柄、時代背景などを知ることによって土台も視野も広くなると思います。
私にとってそういったことは、ヴァイオリン・ソナタの演奏に際してもとても役立っています。
 
●ブラームスの音楽について、その魅力はどういうところにあるとお考えですか?
 
ブラームスの音楽はとても温かい感じがします。私たちが普段の生活の中で感じる些細なことのように、直に共感を持つことができます。彼の音楽にはとても人間らしい面をいろいろなところから感じます。だからこれだけ愛されているのだろうなと思います。
 
●今回のリサイタルを聴衆のみなさんにどういう風に聴いてほしいですか?
 
何にもとらわれないで、オープンな気持ちで聴いていただければ、うれしいなと思います。
誰しもが経験したことのある、抱えているであろう気持ちに近い表現がたくさん散りばめられている作品群なので、是非、この日にホールでブラームスの懐の深い世界を一緒に旅できればうれしいと思います。

●共演の岡田将さんについてご紹介していただけますか?

岡田さんは、学生時代の先輩で、初めて僕がドイツに行ったときに泊めてもらったりもしました。その後、何度も共演させて頂いています。
アンサンブルの面でも、お互いを聴きながら、前後関係でどういう風にしていくかを組み立てていくので、私はすごく信頼しています。
彼のブラームス像と私が楽譜からくみ取ったブラームスの音楽をいい意味で化学反応させて、取り組めればうれしいなと思います。
リハーサルはすでに始めていますが、お互いに影響しあいながら、より練って、本番に向けてもう一段階上を行きたいなと思っています。


 
私はスイスに留学し、岡田さんはヨーロッパに長く住まれていました。
お互いにブラームスが見たであろうに近い風景や風土、現地の人々に接したことがありますから、さらに想像力をかき立てられます。そういうところも活かして、二人でブラームスの作品の素晴らしい世界へとお客さまと共に行くことができればうれしいですね。
 
●西江さんがコンサートマスターを務めてられる新日本フィルは、この4月に佐渡裕新音楽監督を迎えました。佐渡さんとはどのように進んでいこうとお考えですか?
 
佐渡さんはとてもフレンドリーな方で、スタートは順調だと思います佐渡さんは、オーケストラ側の良さを踏まえつつ、いろいろしてくださり、新日本フィルも自分たちの思うところを大事にしつつ、佐渡さんと歩みをすすめています。お互いに協力しあいながら今後の方向性を探っていけるという印象を受けています。
昨年の1月にはソリストの来日が叶わず、私をソリストとして本番を迎えてくださいました。オーケストラの舞台から学ぶことが多いですし、指揮者、ソリスト、作品から学ぶことも多い。私としては新日本フィルでの活動がとても勉強になっています。
今年は音楽監督とは12月の「第九」で共演させていただきます。
 
●最後にメッセージをお願いいたします。
 
久しぶりにブラームスの作品にどっぷりと浸って取り組み、Hakuju Hallという素晴らしい場所でのコンサートをとてもうれしく思っています。
信頼するピアニスト、岡田将さんと、お客さまとともに、ブラームスの心の奥底に入り込んだ旅を、皆様とご一緒させて頂ければと思います。
私自身、オーケストラもソロもどちらも一生懸命に取り組んでいきたいと思っていますので、これからも応援をよろしくお願いいたします。


© Kazuhiko Suzuki

西江辰郎
ヴァイオリン・リサイタル

8月4日(金) 19:00開演
Hakuju Hall
[共演]岡田将(p)

■チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2343935

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