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Grasshopper vol.35/LIVE REPORT公開!

2025.10.09

  • REPORT

912日に、東京・新代田FEVERにて、『Grasshopper vol.35』が開催された。当企画は、チケットぴあの若手社員たちが注目のバンドを応援する企画で、今回は企画史上最大キャパシティで行われた。そんな記念すべき回は、オープニングアクトにN8(neito§)、そして帰りの会と終活クラブの3組を迎えて行われた。そんな謎多き3組による貴重な共演をレポートする。

 ◾︎N8(neito§)


オープニングアクトとして登場したのは、今年7月にデビューしたばかりのソロアーティスト・N8(neito§)!バンドセットで登場した彼は、1曲目の「悪手ですね」からエンジン全開で挑んでいく。


赤い照明がクールでノイジーな世界観を鮮明に演出し、時折捲し立てるような歌唱には気合いを感じた。続く「Passion
」では、ダンサブルで迫力のあるビートに乗って、オーディエンスのハンズアップを誘引。艶やかさを放ちながらも、迸る情熱をひしと感じる彼の音楽に、フロアの熱もどんどん高まっていくのが分かった。そして、TikTokを中心として若者たちのハートを掴んでいる「あいつはねたらしい」も披露。


ダンサブルでセクシーなメロディに乗って、現代に蔓延る死生観の危うさを歌った歌詞がセンセーショナルなナンバーだ。そんな楽曲を歌う彼だが、MC
では「ひとつやりたいことがあって……」と、「N8(neito§)好きな人ー!」とコール&レスポンスと繰り出すチャーミングな一面も垣間見えた。ラストの「天気予報士」ではポップなリズムにオーディエンスも楽しげにノっていて、最後までN8(neito§)の様々な表情を堪能できたライブだった。

 

◾︎帰りの会


静寂に包まれた会場に登場したのは、帰りの会。春原染(Vo)、やまもとこうだい(Gt)、石戸絢真(Ba)、エンヤシンタロウ(Dr)の4人がステージに登場すると、会場は期待に満ちた拍手で彼らを迎えた。そんな中、安定感のあるドラムのビートが気持ち良く足元を揺らすポップチューン「はぐれ星」で快活にライブをスタートさせた彼らは、早速ハンズクラップを沸き起こす。続く「夜更かし楽団」では、青い照明に照らされながら、ドラマチックな曲の世界観を表現していく。星空をテーマにしつつも、日常的な景色を描き、<泣き濡らした枕のカバーを替えたら/少し背伸びして君に会いに行こう>といった等身大な想いを込めた歌詞に、瑞々しさを感じる。



透明感のある声で、言葉ひとつひとつに感情を込めていくような歌い方をする春原染の歌は、時に伸びやかに、時に熱を持って会場を丸ごと包んでいった。雨の音をBGM
とした「あめふり」もまた、そういった歌詞世界が美しいバラードで、照明の逆光が彼らの顔を隠すからこそ、その世界観にどっぷりと浸ることができた。顔出しNGという情報で「謎に満ちたバンド」というイメージが先行しがちだが、彼らの音楽はとても身近で、温かい。これは帰りの会というバンド名にも通ずるかもしれないが、それでいてどの曲もどこか寂しげで、刹那的でもある。何かが終わってしまうことへの憂いも含みつつ、それでもまた明日も歩いて行こうという前向きさも感じる楽曲が、若いリスナーの心に浸透していっているのだろう。

 

そして、終活クラブの楽曲「幽霊」にちなんで、アップテンポの「ゴースト」をプレイ。前曲の雨空を散らすような晴れやかな四つ打ちのビートと軽快なギターリフに乗って、春原もフロアに乗り出しながらクラップを煽っていく。勢いそのままに「透明少女と九月の蒼」に突入すると、オーディエンスも掛け声で応戦!ハイトーンの歌声が気持ちよく突き抜け、バンドとオーディエンスが相乗的にヒートアップしていく。

 

そんな空気をまた一変させたのは、彼らの代表曲「19歳」。鍵盤の煌めく音やコーラスも助力となって、聴く人の未来を優しく照らすような、温もり溢れる楽曲だ。物語のページをめくっていくように、音楽で様々な情景を映し出していった彼らが最後に選んだ楽曲は「次のページ」。間違えても、正解が分からなくても、自分のペースで歩いて行こう──そんな優しいメッセージが伝わってきたライブだった。

 

◾︎終活クラブ


この日のトリを務めたのは、終活クラブ!SEに合わせたオーディエンスのクラップに導かれ、羽茂さん(Key)、ファイヤー・バード(Dr)、石栗(Gt)、少年あああああ(GtVo)がステージに登場。「終活クラブと遊びたい人〜!」と声を掛けると、「しょうもないなあ」で思い切りスタートダッシュを切る。「最高な日にしにきたんだろ!?」と煽りながら、奇想天外に畝るメロディに乗せて掛け声やハンズアップを湧き起こし、フロアのテンションをみるみる上げていく。強烈なスラップベースをきっかけに「マイ魔法陣を囲むダンス」を披露し、オーディエンスのジャンプを誘引する。彼らの楽曲は、トリッキーでポップなメロディの中にも、歌謡的な要素が忍ばされているからノリやすい。そんな絶妙なバランスの上を、抑揚をつけた歌詞が踊るように乗っかるから、摩訶不思議な気持ちになるし、面白い。

 


「マイ魔法陣を囲むダンス」の歌唱中に、少年あああああは「なんかさ、上手くいくこと、いかんこともあるけど、今日が楽しければそれでいいだろ!」と叫びつつも、次曲「詠唱」では<ねえマイゴッド/いつか生きてて良かったと思える日が来ますか/現実と虚構がいつも違って/どっちのことも嫌になんだよね>とナイーブな一面も見せる。どちらが本当の気持ちかかと問われれば、恐らくどちらも本当なのだと思う。人間は一面性の生き物ではないからこそ、吹っ切れる時もあれば、どん底まで落ち込む時もある。そういった誰しもの心に棲みつく人間の本質的多面性を歌い、その上で、今日を楽しんでいこう!と歌い、自由なステージングでオーディエンスを沸かしていく彼らの姿を見て、心強さを感じた。

 

今回のイベントとオーディエンスに向けて感謝を伝えつつ、次に演奏したのは「恋」。タイトルの通り、甘酸っぱくて青い恋愛感情を宿したこの曲は、ポップさの中にも切なさが滲んでおり、会場にスッと爽やかな風を吹かせた。そして、帰りの会の「ゴースト」へのアンサーのように演奏されたのは、今年6月にリリースした「幽霊」だ。初夏の爽やかな空気を思わせる刹那的な楽曲が、エモーショナルな空気を作り出していく。

 

MCでは今回のイベントの趣旨を語り、イベンターから受け取った愛を全力で返すように「絶対いい日にしたいよな!全力でいい日にします、終活クラブに任せな!」とさらに一段階アクセルを踏み込むように「創作逆モラトリアム」を疾走感たっぷりに鳴らし歌う。そこからさらに勢い上げていくかのように「インターネットやめたい」、そして「あなたは、どんなにダメでも、どんなに間違えても、絶対大丈夫!助けに来たよ!」とラストスパートをかけるように「ハイパー005」を宣言通り全力でプレイして、会場の士気を高めていった。

 

「あなたが応援しているバンドは、間違いなくめちゃめちゃかっこいいバンドだと思うよ。そしてあなたも、めちゃくちゃかっこいいよ」と伝えつつ、バンドは、その向けられた愛に甘んじずに挑戦していかなければいけないんだと話した。11月にバンド史上最大級の挑戦となる東名阪クアトロワンマンツアーの開催を控えている彼らは、受け取った愛を返すために、もがいて、自ら挑戦していく泥臭さも併せ持っている。そんな気合いに満ちた眼差しでラストにプレイされた「キラーチューン」、そしてアンコールで爆発的盛り上がりを見せた「地球破壊のマーチ」に至るまで、彼らの真摯さを終始強く感じたライブだった。

Photo by タカギタツヒト (集合写真・N8(neito§)・終活クラブ
      シンマチダ    (帰りの会)
Text by  峯岸利惠

 
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