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Grasshopper vol.32/LIVE REPORT公開!

2025.06.20

  • REPORT

6月9日、下北沢Club Queにて『Grasshopper vol.32』が開催された。チケットぴあのロック好き若手社員たちが注目のバンドを応援する人気企画の第32回。今回のラインナップはペルシカリアとJIGDRESS。それぞれライブで生み出す熱狂に定評がある二組で、「ロックの日」にふさわしいマッチアップと言えるだろう。彼らが果たしてどのように火花を散らすのか、期待の膨らむ会場には月曜日から多くのオーディエンスが詰め掛けた。

■ペルシカリア


まず先陣を切ったのは、2020年結成の埼玉出身4人組、ペルシカリアだ。今年3月に自身最大キャパとなる下北沢シャングリラでのワンマンライブを満員の中で成功させ、その後に全国9ヶ所を精鋭たちと巡る「Gym Battle tour 2025」を終えたばかりの彼ら。この上なく脂が乗った状態であることが存分に伝わってくるステージだった。

一曲目からヘヴィなリフが蠢く。矢口が行き場のない怒りを炸裂させる「ハウオールドアーユー」。なるほど、彼らはこのガチンコのツーマンを他でもない“勝負”の場と捉えているのだろう。「初めて観る人のために紹介します!」と繰り出された、タッピング・スイープ・スラップとテクニックてんこ盛りのたいぴょん(Gt)と中垣(Ba)のソロ回しにも気合いがみなぎっている。さらにスピードを高めた「離愁」の演奏を終えると、熱い歓声が起こった。

矢口はJIGDRESSの印象について「ルサンチマンの茂木(Dr)に聞いたら『インターネットヤクザがいるバンド』って言われました」という一言で笑いを誘い、「僕らもインターネットチンピラとして良い演奏ができるように頑張ります!」と意気込む。その言葉から間髪なく突入した「歓声の先」では、歌い出しから一斉に拳が。そして「俺たちにしかできないことをやりに来ました!」という言葉に導かれたツービートのショートチューン「風道」から、ギアが一段階上がる。様子見していたオーディエンスが一気に前方へと押し寄せ、ダイバーも発生。あっという間に駆け抜けるや否や矢口は「JIGDRESSのお客さん、ごめんなさい。(もみくちゃのフロアを一瞥しつつ)こんな感じです。本領発揮します」と「風道」をもう一度披露! すっかりペルシカリアのホームグラウンドとなった会場に、「優しい人」「どうしたって」「死ぬほどどうでもいい」と高速ナンバーを立て続けに叩き付けた。ああ、確かにどうでもいい。ペルシカリアが目当てだろうと、JIGDRESSのファンだろうと。いま目の前にカッコいいロックバンドがいて、この瞬間、彼らに強く惹かれているというだけだ。

スイッチが入ってしまった様子の矢口は、「セトリを変えよう」と笑う。本来はミドルチューンを挟むはずが、「ショートカット」をプレイし、たぎるエナジーを絶やさない。続く「情けない」からは、ただここにいる"君"のことを笑わせたいというバンドとしての矜持が垣間見えた。

さて、ライブは早くもクライマックスだ。コーラスワークと高音弦のギターフレーズが清涼感を漂わせる「タイムオーバー」では、矢口のハイトーンが突き抜けて、強い光が他でもない我々を輝かせる。矢口は度々、歌詞からはみ出た思いを叫ぶ。正直に言えばその言葉は正確に聞き取れたり聞き取れなかったりするのだが、それでも音楽で人を照らしたいという強い意志はハッキリと伝わっていた。

「いつからか」を歌い出した矢口だが、すぐにそれを中断してセキュリティに感謝を述べる。息つく暇もない時間の中で、一度立ち止まってでも届けたい言葉を大切にするのが矢口らしさなのかもしれない。最後に「さよならロングヘアー」で再び疾走すると、「ライブハウス最高! ありがとうございました!」と満足気に叫んで45分間のアクトを締め括った。怒りも憂いも混じり気のない熱に変えるロックバンドと、それを受け止める優しくも激しいフロア。音と笑顔でお互いを照らし合う、幸福な時間だった。




■JIGDRESS

バトンを受け取り、汗ばんだステージに登場したJIGDRESS。青白い照明を背負った「refill」が、先ほどまでのペルシカリアのステージとは対照的な、冷たく鋭いムードを少しづつ空間に浸透させていく。90年代オルタナティブロックからの影響が色濃い彼らの楽曲は、世紀末的な厭世観とひとさじの希望の拮抗がスリリングだ。時間をかけて高められた緊張感が、楽曲後半に解き放たれる。

山崎大樹(Vo/Gt)のトレブリーなギターストロークが静けさを切り裂いた「mother」からは、「plan」「taog」とスピード感のある楽曲が続いた。しかし、山崎の歌声は感情を剥き出しにするというよりは、どこか遠く、あるいはそれこそ世紀末の過去を眼差しているような平熱のエモーションを滲ませている。一方で、イセノ(Gt)のこれでもかというほどコーラスエフェクトを聴かせたギターフレーズと、ワタナベカズタカ(Ba)のアンサンブルを牽引する芯のあるベーストーン(「taog」のイントロでは野太い歓声が上がっていた)が、音世界に奥行きを生んでいた。

ようやく一息ついた山崎は、「やっぱりペルシカリアみたいにデカいことを言うバンドが一番カッコいいと思うんすよ。生意気で良い。刺激を貰いました」と今夜の対バンから確かな感触を得たようだ。「引き続き、俺らに身を任せて適当に遊んでください。よろしくね」と語ると、やるせなく響くアルペジオからグランジーに展開する「Flicker」へ。身をよじり頭を振り乱す彼らは、決して目に見えるアクションを受け手に要求しないが、しかし確かな共鳴を呼び起こしているようだ。

ミドルテンポな「nano」「poly」はセンチメンタルに鳴り響く。音の隙間を無闇に埋めないこれらの楽曲では、イセノの記名性に富んだサウンドがより一層効力を発揮。深いリバーブがClub Queを丸ごと包み込んで、そのまま遥か彼方へと連れ去ってしまう。

「気の利いたことを言えない俺だけど、みなさんと向き合うには誠心誠意ライブをやるしかないっていうことに行き着きました」と山崎。その言葉の通り、ライブ終盤は魂を絞り切るかのごとく叫び散らした。「wack」はテンポこそ速くないものの、一打一打、殴り付けるかのようなヤマグチハヤト(Dr)のドラミングでボルテージを高めていく。その勢いを、セットリストの中で一際メロディがハッキリと浮かび上がるキラーチューン「5/0.6」に繋ぐと、ラストは「狂ってる」。狂ってる。楽曲終盤、ただでさえ迫力満点だったギターの音量がさらに上がって、鼓膜を貫く。凄まじいシャウトとノイズの中で、彼らはステージに幕を下ろした。


…と思いきや、山崎は退場せずに「アンコールありがとうございます」とライブを続行。「ペルシカリアと共演するならこれだけはやりたいという曲」と紹介されたのは約1分のショートチューン「ってか」。ダイブが発生する中で山崎はギターを手放しマイクに齧り付く。一切の余力を残さない、痛快なエンディングだった。

冷たいのにうるさくて、尖ってるからキラキラしてる。緊張と焦燥を轟音で増幅&発散させ続けたJIGDRESS。きっと翌日まで響くであろう耳鳴りの予感が、不思議と心地良かった。


終わって振り返ってみるとまさしく好対照で、互いのスタイルの違いを際立たせながらその核にある思いの確かさで親和性を示した二組。ペルシカリアは10月18日に4th EPをリリースし同日から全国7か所の対バンツアー『シチテンハッキツアー2025』をスタート、JIGDRESSは8月19日に渋谷WWWXにて主催イベント『信念』を開催するなど、今後も加速していく彼らの活動から目が離せない。そして、ロック好きなら7月17日に渋谷Spotify O-Crestにて開催される『Grasshopper vol.33』(出演:PompadollS / Dannie May)もお見逃しなく。


Photo by 石丸大貴(集合写真・ペルシカリア2枚目・JIGDRESS 1,3,5枚目)
     こちろう(ペルシカリア1,3,4,5枚目 ・JIGDRESS 2,4枚目)

Text by サイトウマサヒロ

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