Grasshopper vol.24/LIVE REPORT公開!
2024.08.10
- REPORT
7月屈指の猛暑日となった7月22日(月)、東京・下北沢Flowers Loftにて『Grasshopper vol.24』が開催された。出演アーティストは「弁天ランド」「かりんちょ落書き」「SPRINGMAN」の3組。観客の心を揺さぶったスリーマンの様子をレポートしていく。
■弁天ランド
トップバッターは弁天ランド。老若男女全年齢対象令和歌謡ロックバンドを謳い、SUMMER SONIC2024に出演が決定した今乗りに乗っているアーティストだ。
ライブ開演時間になるとSEであるロイ・オービソンの「Oh, Pretty Woman」が流れ、陽気な雰囲気の中、弁天ランドのメンバーが順に入場。サトウケイ(Gt/Vo)が観客に手を上げ「よっ!」と口を動かす。メンバーが定位置に着き、カウントが刻まれる。口笛を想起させるイントロがショーの始まりを感じさせる「ごめんね」で、公演は幕を開けた。<心配ばっかりかけてごめんね 悲しい心にさせてごめんね 涙を拭いてあげれずごめんね 謝るばっかでごめんね なんとなくだけど伝わるだろか 今まで出会えた全ての人々と『あなたたちにっ!』>本来の歌詞に付け加える形でフロアへ向けてメッセージを届けるサトウ。観客の温度がグッと高まる。
1曲目が終わると間髪入れずに「ゼンボーイゼンガールズ」が始まる。
<君に言えないことばっかだよ 君に言えないことばっかだよ>サトウとマエダユカイ(Gt/Cho)の勢いのある歌唱が心に訴えてくる。2人は何かに怒っているような、何かに嘆いているような表情だ。
「みなさんお待たせしました!我々が弁天ランドですよろしく〜!」
アップテンポなドラムから流れるように、歌謡感溢れる「白朝夢」へ。観客もゆるやかに揺れていたのが印象的だ。
マエダ「皆さんこんばんは!弁天ランドです!ご来場ありがとうございます」
サトウ「こんなに多くのご来場ありがとうございます。僕たち弁天ランドは初めてFlowers Loftに出させていただいて。若手を代表してやっていきましょう!皆さんが応援しないと若手は育たない!」
マエダ「いつもありがとうございます。これが総意ですね」
サトウとマエダの掛け合いのあるMCに観客から歓声が上がる。
サトウ「なので、応援したくなるような演奏をします!愛のある場所、それがライブハウス!それがロックバンド!」
そう宣言し始まった「rove song」、シラクマタイセイ(Dr)が身体を上下に弾ませながらテンポ良く演奏する。<あなたに恋をしている あなたに何度でも恋する>観客と目線を合わせ、口角を上げるサトウ。
「Sunday Girl」では、これでもかとオレンジ色の照明が夕焼けのような空間を作り出し、フロアも横揺れする。間奏の歪んだギターがより刹那を掻き立て、その情緒的な光景に、チャーリー(Ba)がフロア全体をじっくり見渡す。
歌い終えるとサトウが「盛り上げていきましょう!Grasshopperと日本の音楽業界!好きという力が人の力になっているわけですから。相乗効果。笑顔の観覧車でやっていきましょう!」と宣言。
「春をかぐ街で」では、「こんな暑い日でも春の事を思い出して」というサトウの言葉通り、別れの季節でもある春の懐かしい記憶が蘇えり、心の内が温かくなる。
心地よいメロディの「レモンサワー」、フロアが心地よく揺れていた。アルコールを飲みながら音楽に身を委ねたくなる楽曲だ。
「残り1曲で弁天ランドはおしまいです。目指すは宇宙ワンマンです」
のびのびとしたフェイクから「記憶に溶けて」、<愛はとうに低下 狂おしさを返して 狂おしさを返して 夢で見て 思わず 記憶に溶けて>間奏で「神様なんていませんっ!」と述べるサトウ。フロアは思わず聴き入っていた。
音源よりも何万倍もパワフルさ溢れる演奏で、観客を音楽で溶かしていった弁天ランド。
まるで彼らは「太陽」という言葉が似合う、ヒーローのようだった。
<セットリスト>
1.ごめんね
2.ゼンボーイゼンガールズ
3.白朝夢
4.rove song
5.Sunday Girl
6.春をかぐ街で
7.レモンサワー
8.記憶に溶けて
■かりんちょ落書き
シンガーソングライターで自身のグッズデザインなども務めるクリエィティブなかりんちょ落書き。本公演では、バンド編成での出演だ。
「今日は暑い中、お集まり頂きありがとうございます!音楽で暑さをちょっとでも忘れられるライブにできたらなと思うんですけど、宜しくお願いします!」とフロアに挨拶すると、「海が満ちる」が始まる。爽やかなバンドサウンドがフロアに染み渡り、まるで会場に風が吹いているかのようだ。1曲目から観客はすでにノリノリで、その様子にかりんちょ落書きも「サンキュ!」と礼を述べる。
2曲目「change!」では壮大なサウンドで、かりんちょ落書きとサポートメンバーたちが観客のボルテージをさらに煽る。
どことなく平成味を感じ、目を閉じると学生時代の夏の記憶が蘇る「溶けあうくらい」では、サポートドラマーとのコーラスが懐かしいハーモニーを奏でた。
「今の歌は夏の歌です。僕は曲を作るときは、夏の歌を作りがちなんですね。
なんでかというと、夏って人との距離が近くなるような気がするんですよ。恋焦がれるというか、色んな人に思いを馳せる季節だと思います。次の歌は、そんな夏の、僕の恋の歌です」
そうして始まった「マジックアワー」、好きな子の様子を繊密に描写した詞を歌うかりんちょ落書きの声が響く。ギターのカッティングから段々と熱を帯びていくサウンドは、まるで魔法にかかる瞬間を見ているようだった。
グッズ紹介を挟み、ギターを手放し歌い出したのは祖母へ思いを馳せて作ったという「white blonde」、洋楽風の音色から始まり、激しめな転調を経ると近未来感溢れるメロディになり、一気に観客の拳があがる。
「管制塔」では、青い照明も相まり幻想的な雰囲気にフロアは横揺れする。<見つめるだけじゃ足りないよ 言葉を交わそう>歌詞に沿い、観客と目を合わせるかりんちょ落書き。
真っ暗な中、かりんちょ落書きだけが照らされる。「少年」が始まり彼の声がフロアに響く。<少年よペンを持て 一冊のノート持て 退屈を想像で 埋め尽くせ 埋め尽くせ >人差し指を立てながら叫ぶように歌うかりんちょ落書き。その姿は、観客だけでなく自分にも言い聞かせているように見えた。
歌い終え「かりんちょ落書きでした!」と言うとサポートメンバーと自身の紹介をし、ラストソング「dari」が始まる。祭り感を掻き立てるエレクトリックなキーボードにカラフルな照明で、弾けたように踊るフロア。
満足な表情を浮かべ演奏を終えると「また会おう!どっかでどっかでどっかでまた会える!」そう約束し、彼はステージを後にした。
手練れたサポートメンバーで構成されたバンド編成と情緒的な世界観で、より重厚感が増した姿を見せてくれたかりんちょ落書き。公演の前日(7月21日)に誕生日を迎えたという彼は、きっとこれからも進化し続けるだろう。今後、どんな音楽を描いてくれるか楽しみである。
<セットリスト>
1.海が満ちる
2.change!
3.溶けあうくらい
4.マジックアワー
5.white blonde
6.管制塔
7.少年
8.dari
■SPRINGMAN
3組のトリを飾るのは、4月にファーストミニアルバム『SCREW』をリリースした荒川大輔(Gt/Vo)のソロプロジェクトSPRINGMAN。
観客たちの心をさらに弾ませるようなSE・LOVE PSYCHEDELICO「Freedom」が流れると、荒川がタオルを掲げてステージに登場し、観客は拍手で彼を迎える。
「心境」1曲目からフルスロットルに全力で声を出す荒川と、サポートメンバーと一緒に奏でるバンドサウンドが、身体に響き心地良い。荒川のギターソロではレスポールが照明に反射し、その姿はあまりにも格好良かった。
「SPRINGMANです!どうぞよろしく!あなたが来てくれて良かった。俺、君がいなきゃだめです」
<君がいなきゃダメです>という歌詞が実直なラブソング「カポック」、目を閉じ気持ちを込めて歌う荒川は微笑んでいる。
青い照明に包まれながら、「1人の帰り道に自分と向き合う時にポツリポツリと思うこと。『とりとめもなく』」という言葉で始まった「とりとめもなく」では、ギターのカッティングが聴いている側の感傷を掻き立て、まるで夜に吸い込まれていく様だった。
弾き語りで始まる「勤労」、荒川の声だけがフロアにジンと響く。観客も頷きながら彼の声に耳を傾けていた。段々とサポートメンバーの音が重なっていくにつれ、観客が全身を使いリズムをとっている様子がとても印象的だ。
歌い終え勢いよく水を飲むと、サポートメンバーの紹介を経て自己紹介する荒川。
野球を諦めた事、ミュージシャンになろうと思った事、浪人を経て元バンドメンバーと出会った事……。
「(色々な人が自分を応援してくれるけど)本当は俺がみんなのことを応援したい。
ここに来るまでたくさん逃げた。でもたまには逃げてもいいと思うんです。友達が助けてくれたように僕があなたを助けたい」ファンやサポートメンバーへの感謝と意気込みを述べると、「エスケープコール」が始まる。リスナーに寄り添うかのように振り絞りながら歌う荒川と頷きながら聴いている観客。その姿はまるでお互い支え合っているように見えた。
「色々あるけれど、もう全部一旦忘れて!いつか思い出になって、笑い話になると思います!」と言うと「さよなら北千住」が始まる。ミラーボールが輝いた空間に、更にギアがかかった荒川。フロアのテンションもますます上がっている。
一呼吸し挨拶をすると最後の楽曲「右にならえ」が始まる。荒川が片脚を上げ、弾みをつけるようにギターを弾く。汗が照明に反射する。ロックな楽曲に、思わず飛び跳ねている観客もいる。
演奏後「ありがとう!」そう言うと彼は深々と一礼し、ステージをはけていく。すると間髪入れずにアンコールを望む拍手が起こった。
それに答えるように再びステージに現れる荒川たち。
「『Grasshopper』って名前には近いものを感じておりまして、私『SPRINGMAN』って春じゃなくてバネの方なんですけど。ピョンって飛んで、落ちて、飛んで。(まるで)人生みたい。でもみんなにとって『バネ』みたいになれたらいいなって思ってます。これからも歌い続けていきたいと思うし、あなたと一緒に生き抜きたい」そして始まったのは「still writing…」、<歌って欲しいって君が言うラブソングが嫌いだ>甘い声で歌う荒川。サポートメンバーの心から楽しそうな笑顔も印象的だった。
アンコール曲を終え「ありがとうございました!」と言うと荒川は深々と礼をし、フロアを見渡し力強く頷いた。
<セットリスト>
1.心境
2.カポック
3とりとめもなく
4.勤労
5.エスケープコール
6.さよなら北千住
7.右にならえ
En.still writing…
表現力の高いアーティストが揃った本公演は、楽曲の世界観や演奏に魅せられ、暑さを忘れる事のできる爽やかなライブとなった。
次回『Grasshopper vol.26』は、9月8日(日)に渋谷Spotify O-nestで「えんぷてい」「goethe」「Geloomy」を迎えスリーマンで開催予定だ。
夏夜に彼らは、一体どんなライブを見せてくれるのだろう。
Text:おはた
Photo:清水舞