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広瀬すず
2026.06.01
- CATCH EYE
言葉とそこに潜んでいる意味を届けていきたい
text:大内弓子 photo:アライテツヤ
editor:武内和子(ぴあ)/幡野美和子(ぴあ)/
中村紀子(ぴあ)
hair & make:永瀬多壱(VANITÉS)
stylist:丸山晃

「初舞台のときにまず野田さんから言われたのが声の出し方だったんです。
『悲しいときも感情のまま小さくかすれた声を出すよりも、
大きくきれいに伸ばした声を前に前に出すほうが舞台は美しく伝わるよ』と。
自分の声が大きく響くことには照れますけど(笑)、
今回も声を出して、言葉とそこに潜んでいる意味を届けていきたいです」
今年4月に東京公演より開幕し、6月に北九州、7月にロンドン、大阪を駆け抜ける
野田秀樹作・演出による新作舞台「NODA・MAP第28回公演『華氏マイナス 320°』」。
野田作品への参加は2作目となる広瀬すずに、本作出演への思いを訊いた―――
4月に開幕した東京公演を皮切りに、北九州、ロンドン、大阪と公演が続く、野田秀樹作・演出のNODA・MAP新作舞台『華氏マイナス320°』。取材時は初日に向けての稽古中とあって作品の全貌は明らかになっていなかったが、稽古の様子を話す広瀬すずの表情からは、そこに何かおもしろいものが詰まっていることがうかがえる。
「稽古に入る前、脚本を読んでいるだけの段階では、すごく複雑な役だな、どう解釈するのが正解なんだろう、どう演じたらいいんだろうと、本当に迷子になっていたんです。野田さんはなぜ私にこれができると思ったんだ!? と疑問が湧いてしまうくらい(笑)。でも、稽古で実際に身体を動かして、みなさんの声を聞いて、自分も声を出してということをやっていくと、その複雑だと感じていた部分が意外とすんなりほどけていって。さらには場面が変わるときのアイデアひとつで一気に見えてくるものがあったり、相手との距離感が変わったりもして。舞台ってすごいと思う毎日を過ごしています」
広瀬が複雑だと感じたのも無理はない。今回、野田が描こうとしているのは、「正しくない科学に基づいた、正しくないSF(サイエンス・フェイクション)」。ある化石の発掘現場から物語は始まり、"謎の骨"とその"謎"を探す旅が、現代から中世、古代へと展開していくなかで、広瀬は"光の天使"として現れたり、"メフィスト"になったり、ほかにも何役も演じなければならないのだ。しかも初舞台だったNODA・MAP「『Q』:A Night At The Kabuki」(2019年/2022年再演)では、「ロミオとジュリエット」をベースとしたジュリエットを演じたが、今回はいわゆる人間ではない役にもなる。それも、天使とメフィスト(悪魔)などという真逆の存在だったりするのだから、迷子になったのも当然だろう。

「ジュリエットのときは、もとに「ロミオとジュリエット」があって、人間像の目指す方向がはっきり見えていたんですが、今回はまったくヒントのない状態で人間じゃないものを作っていくので。やっぱり考えても考えてもわからないところが最初はありました」
それでも、役についての想像はどんどん広がっている。
「光の天使は登場回数は多くないんですけど、毒っぽい瞬間もあれば本当に希望のある瞬間もあって。ある意味自由に、そのときどきの空気を感じながら存在している感じがおもしろいので、楽しく演じられたらと思っています。メフィストは描かれているテーマに対して感情高く関わっていく存在なので、そこで起きていることに、常に好奇心強くいたいなとは思っていて。ただ、今まで演じたことのない思考回路をしているところがとても難しくて。台本からは喋っている内容と表情や動きが真逆になっているんじゃないかと感じるんですけど、私は普通の人間なので、やっぱり感情と表情が全部繋がってしまって(笑)。でもちょっと違和感のある表現をして、変化をつけられたらいいなと思いますし、そういう表現は舞台ならではだと思うので。新鮮な感覚で挑戦していきたいと思っています」
因みにそのほかの役や、それらの役をひとりが演じることの意味は、見てのお楽しみ、である。ほかのキャストが演じる役も含め、ひとつひとつの役が、ひとつひとつの言葉が、どう絡んで、どう膨らんで、どううねっていくのか。そこにこそ野田作品の魅力はある。
「野田さんが書かれる言葉は素直に読んでもドキッとしますが、稽古で野田さんから『ここはこういうことを表現したいから、こう演じたほうがいいと思う』というような演出を受けると、ここにそんな想像以上の意味があったんだ、自分にはまだまだ見えていないものがあるんだろうなと思うんです。そして、ストレートに大きな声を出して言うからこそ意味があるんだなと感じる言葉も多くて。初舞台のときにまず野田さんから言われたのが声の出し方だったんです。『悲しいときも感情のまま小さくかすれた声を出すよりも、大きくきれいに伸ばした声を前に前に出すほうが舞台は美しく伝わるよ』と。自分の声が大きく響くことには照れますけど(笑)、今回も声を出して、言葉とそこに潜んでいる意味を届けていきたいです」

勿論、ただ指導を受けたから大きな声を出そうとしているのではない。映像とは違う舞台の声の表現方法から、自分自身が受け取っているものもたくさんある。
「相手との狭い空間で繊細なことが生まれる映像のお芝居も好きですけど、舞台で大きな声を出すと距離が遠くても自分の言葉と相手の言葉がちゃんと接触するというか、接地面がたくさん見つかる気がするんです。いろんな人の言葉がいろんな角度からストレートにグサグサ刺さってくる感じもおもしろいです。ゲームの「黒ひげ危機一発」のなかにいて言葉の剣を受けているみたいで(笑)。まわりは先輩ばかりなので緊張しますけど、みなさん役によってリズムを変えられたりしていて、そういう表現を持っていらっしゃるのがカッコいいなと思います。なかでも川上友里さんは色の出し方が独特で(笑)、自分に色がないだけに素敵だなと憧れてしまいます」
しかし「黒ひげ」に例えるような鋭くユニークな感性は、紛れもなく広瀬だけのものだ。その豊かな感受性で役を作り上げた先に広瀬の色は出てくるはず。今もすでに、野田の台詞を発することについてこんなおもしろい表現をする。
「特に後半のメフィストは覚悟のいるシーンで、何度やっても言葉に自分が吸い取られていく感覚になるんです。自分の重心を下に置いておかないと、言葉が揺れるというか、いなくなりそうなくらいに動いたり、ちょっと距離が遠くなったりする。だからどんどん力強い表現になっていっているんですけど、ここからまたいろいろ試して、変化させながら探っていければなと思っています」
そうして作られるメフィストが関わっていく作品のテーマは、明かしてもいい範囲で言うなら「生命」になるだろう。それを広瀬の感性はどう受け止めているのか。
「センシティブな問題を描いているのでなかには心が痛くなる景色もあると思います。でも稽古で最後のシーンを見て"すごい! 自分は生きている!"と感じて鳥肌が立ったんです。生命とは、と聞かれたら答えるのは難しいですけど。私たちが生身で表現するからこそ感じられることを、楽しみにしてもらえたら嬉しいです」

PROFILE
- ひろせすず
- '12年のデビュー以来、数々の映画・ドラマ・CMで活躍し、'17年に映画「怒り」で日本アカデミー賞優秀助演女優賞を受賞。'19年の初舞台「NODA・MAP第23回公演『Q』:A Night At The Kabuki」初演で紀伊國屋演劇賞・個人賞を最年少で受賞した。現在、本年4月に開幕した「NODA・MAP第28回公演『華氏マイナス320°』」に出演中。
【出演舞台】
NODA・MAP第28回公演『華氏マイナス320°』
